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芸術は魂の叫び。戦没画学生慰霊美術館「無言館」を訪ねる

山 の 麓

2022.11.7-11.10

歩き人たかちです。

あっという間に中・高山の紅葉は終わり、冬が間近の晩秋。奥秩父の縦走と合わせて、長野県上田市にある戦没画学生慰霊美術館「無言館」に訪れました。

1997年に開館した美術館ですが、このような美術館があったことを知らず。24時間テレビのドラマで劇団ひとりさんが脚本・監督を務め、それを観たことで無言館を知りました。ドラマで知ったという方も少なくないと思います。

劇団ひとりさんの初脚本である「浅草キッド」も面白かったですが、「無言館」も本当にいいドラマでした。

★DAY1:戦没画学生慰霊美術館「無言館」
 DAY2:毛木平-甲武信ヶ岳
 DAY3:甲武信ヶ岳-金峰山
 DAY4:金峰山-瑞牆山

    アクセス
ーーーーーーー
◾︎ WILLER EXPRESS
新宿(7:10)-東部湯の丸SA(10:40)
*最寄りの「田中駅」まで2.8km

▪︎ しなの鉄道線
田中駅(11:49)-上田駅(11:59)
▪︎ 上田電鉄別所線
上田駅(12:10)-下之郷駅(12:25)
▪︎ 信州上田レイライン線(バス)
下之郷駅(12:30)-無言館(12:41)

*以前は「塩田町駅」からシャトルバスが出ていましたが、令和4年から「下之郷駅」発着となりました。

節約で新幹線は使わずバス旅で。上田駅を通過するバスは池袋駅か下落合駅からの出発で、乗り換えなどによる通勤ラッシュを避けるため新宿から長野行の高速バスを選び途中下車(バスタが便利なので)。降車した「東部湯の丸SA」から最寄り駅の「田中駅」までは徒歩で約30分。「軽井沢駅」での降車も考えましたが、電車の時刻まで時間があったので散歩がてら歩くことにしました。


信州上田レイライン線

信州の鎌倉シャトルバスについて - 上田電鉄株式会社
無言館、前山寺、龍光院等をめぐる「信州の鎌倉シャトルバス」は、2021年5月1より別所線接続駅が塩田町駅から下之郷駅に変わり、下之郷駅~別所温泉駅「信州上田レイライン線」として生まれ変わりました!乗換駅は、下之郷駅です。

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無言館と上田の町

 

東部湯の丸SAで降りたのは私だけ。このSAには駅弁の"峠の釜飯"で有名な「荻野屋」があり、とても美味しそうでした。食べようか迷いましたが、結局峠の釜飯おにぎり(鳥ごぼう)と、峠の釜飯パン(ごぼうパン)を買ってぷらぷら歩きながら食べることに。

最寄り駅の「田中駅」までは2.8km、歩いて35分ほど。日影のない、開くに開けた緩やかな下り坂をのんびり歩く。

上田駅から上田電鉄別所線に乗り換えて下之郷駅まで。赤と白のお洒落な駅。ここから別所温泉行のバスに乗ります。5,6人くらい乗っていましたが、全員無言館で下車。

無言館のバス停は「山王山公園」の前にあります。町を見下ろせる、眺めのいい素敵な公園。遊具やテーブルベンチがいくつかあり、とても気持ちのいい場所。

画像出典:無言館

 

公園から第二展示館の前を通り、本館である無言館に続く坂を登っていきます。山王山公園から無言館までは400m弱。無言館の目の前には駐車場もあります。

紅葉樹の中に静かに佇む、打ちっぱなしのコンクリートの建物。いつもならコンクリートにいい印象は抱きませんが、この建物は妙にここの自然に溶け込んでいました。

無言館は、戦死した画学生の作品を展示している美術館です。館長である窪島誠一郎さんが遺族の方から一点一点預かった作品は100点以上。

出口での支払いなので、入口からそっと入りそのまま鑑賞。平日でしたが、思った以上に訪れている人が多く、しかし、中はとても静か。歩く音さえ気を遣うような、美術館本来の空気がありました。

描く対象は人それぞれですが、多かったのは故郷や愛する人の絵。戦争を知らない自分にはその時の心情をリアルに理解することはできませんが、最後になるかもしれないキャンバスに、心で力強く描いたということがひしひしと伝わってきたような気がします。

基本的に美術館では名の知れた人の絵を見るため、その人のイメージを無意識に絵の中に感じていると思います。しかし、ここにあるのは無名の画学生のもの。誰なのか、どんな人なのかという情報は、絵の横にある数行の紹介文のみ。

無名だからこそまっさらな気持ちで鑑賞することができ、それがとてもよかった。何を考えてこの絵を描いたのだろうとか、この風景のどこか好きだったのだろうとか、何も知らない人に思いを馳せながら夢中で見ていました。

アートは下手、上手いの世界ではないけれど、「絵が好き」「描きたい!」という本物の魂が、時代を超えて現代を生きる自分にも伝わってきました。有名か無名かではなく、その作品がどれほど人の心を打つか。

館長である窪島さんの挨拶にあった「絵筆を銃に替えて生きねばならなかったかれらの無念」という言葉が、ずっしりと重かった。心から好きなものを奪われる、一生触れることができないかもしれないという心境はどれほど辛いことか。今の自分からアウトドアを取られたら、生きる希望を失くしてしまう。

感銘を受けるとは違う、今まで訪れた美術館では感じられなかったものに触れました。ただただ、本当に絵が好きな人たちの、心で描いた作品の魂を見せてもらった。そんな感情。

無言館の前には「記憶のパレット」と名付けられた慰霊碑があります。黒御影石の大きな石碑で、戦時中の東京美術学校の授業風景と、日中戦争・太平洋戦争で亡くなった403名の画学生名が刻まれています。

2005年、このパレットに赤いペンキがかけられるという事件があったそうです。なんと卑劣な行為・・・恨みなのか、嫉妬なのか、意図はわかりませんが、山や海にゴミを捨てる人がいるように、このような人は世の中にどうしても一定数いると思うと悲しくなりますね。

館長の窪島さんは当時、「無言館について様々な考え方やとらえ方があるのは当然だが、それをこうした手段でしか表現できないとしたら、あまりに悲しいことです」と語ったそうです。

第二展示館の「傷ついた画布のドーム」へ。

こちらは入口に扉はなく、本館に比べると中の雰囲気がフラット。それ故に、外の音(話し声)が少し気になりました。

本館を出たときに、ちょうど入れ替わるように高校生らしき女の子の集団が先生に連れられて入っていきました。その後、こちらを見ていると外ががやがや。集団の子たちがバラバラと来ました。

残念ながら、それがとてもうるさかった。真面目に見ている子は少なく、全く関係のないお喋りをしながらただ絵の前にいたり、「最短で出よう〜」と言って何を見るわけでもなくウロウロしていたり。本館の方はとても厳しく、話し声とかスマホの音が少しでもしようものなら管理人さんが注意していました。しかし、こちらは出口の扉を出たところに受付があり、多少うるさくても管理人さんが登場することはありませんでした。

どうせなら、こちらも本館のような雰囲気にしてほしいなあと。本館ほど集中して見ることはできませんでしたが、第二展示館も見応えがあり、とてもよかったです。

静かに鑑賞したいという方は、平日の早い時間がいいかもしれません。

展示室の出口を出ると「オリーブの読書館」に繋がっています。美術書などを中心に多くの本がありました。椅子と机があるので、その場で閲覧可能。読書館は外から直接入ることができ、こちらは無料で閲覧できます。自分の中で理想の図書館という感じで、とても素敵でした。

前庭にある「絵筆の椅子」。現在活躍している画家の方や美術学校の方の絵筆が埋め込まれています。

右上には赤いペンキ(色褪せてちょっとピンク気味)がベシャッとあり気になりました。血でも現しているのかな・・・と思いましたが、裏に説明書きが。これは、上記の記憶のパレットに赤いペンキがかけられた事件を復元したもの。「無言館」が多様な意見、見方の中にある美術館であることを忘れないためとのこと。

画家は愛するものしか描けない
相手と戦い 相手を憎んでいたら
画家は絵を描けない
一枚の絵を守ることは
「愛」と「平和」を守るということ

このような言葉もありました。

太平洋戦争末期の激戦地となった沖縄県糸満市・摩文仁の丘から運ばれてきた石が敷き詰められています。

2時間ほどたっぷりと鑑賞させていただきました。自分の祖父と祖母は戦争経験者。祖父は2人とも私が1歳の頃に亡くなったので記憶はありませんが、両人とも心臓が弱く戦地に赴くことはなかったと聞いています。祖母からぽつりぽつりと戦争の話を聞いたことはありますが、その恐ろしさを身体で知ることはできません。

だからこそ、話を聞いたり、残されたものを見て"感じる"ことはとても大切なのだと思います。身近に生き抜いた人がいるため、高校の修学旅行で鹿児島県の「知覧特攻平和館」を訪れ、戦争の話を聞いたときも自然と重ね合わせていました。

広島県の原爆資料館に訪れたときは、友人は耐えられなくなり途中退室。現在はリニューアルして以前より見やすくなっていますが、やはり記憶に強く刻まれているようで、新しい資料館を見たあとも脳裏に残っているのは旧資料館の光景。過去を理解するには、ある程度のショックも必要なのだと思います。

"絵を通じて戦争を知る"ということが新鮮で、資料館のように特別な説明がないからこそ、静かに訴えてくるものがあると感じました。

何かを感じると、それは強い記憶として残ります。言葉にする必要はなく、頭と心の片隅にそっと置いておけばいい。「無言館」という言葉の意味はたくさんあると思いますが、この名がとてもしっくりくる美術館でした。

無言館の近くには「KAITA EPITGPH 残照館(旧信濃デッサン館)」があり、こちらも無言館が運営しています。開館が土・日・月のみですが、併設されている「豆cafe enjyu」がとても素敵(営業は美術館と同じ、期間営業)。午前中に無言館を見て、午後はカフェでのんびりするのもいいなと思いました。


豆cafe enjyu  Instagram

Instagram

 

お昼頃は数人の大人が静かに座っていただけの山王山公園には、子どもたちの元気な声が響いていました。

「そろそろ帰るよ〜」「まだ帰らなーい!」という親子のやりとりが何度となく繰り返される光景に、平和だなあと。


無言館

戦没画学生慰霊美術館 無言館
戦没画学生慰霊美術館 無言館


バス停前の銀杏の木

 

15:32発のバスに乗り、上田駅へ戻りました。近くのホテルにチェックイン。素泊まり¥5,000で地域クーポン券を3,000円分いただきました。

明日からの奥秩父縦走のために珈琲豆を調達。上田駅周辺にはカフェや喫茶店が多くあります。訪れたのは「VACILANDO COFFEE」というカフェ。

店主の柔らかくて優しい雰囲気をそのままお店にしたような、入っただけで居心地のいいカフェ。ちょうどブレンドが切れているとのことで、その場で焙煎してくださいました。

時間も時間で珈琲豆を買っただけですが、パンやスコーンも美味しそうで、また上田に訪れたときはゆっくりしたいなと。

地域クーポン券を使って食料調達。大きなスーパー「ツルヤ」へ行きました。2,000円分を使って2泊3日分の食料と行動食。ツルヤに併設した「お菓子処花岡」で、良いお菓子も。クーポン券、ありがたい限り。

帰り道、行きで見かけた「富士アイス」に寄り道。大きなガラス窓の中で手際よく焼かれている"じまん焼き"を無視することはできませんでした。

あんことカスタードの2種類で、1個90円。この後夕食だったので、悩みに悩んでカスタードを1つ。クリームたっぷり、皮はもちもち。めちゃくちゃ美味しかったです◎あんこも食べたかったー。

商店街をふら〜っと歩いている人や帰宅途中の人、みんなが吸い寄せられるように富士山アイスに立ち寄っていました。じまん焼きを1つ片手に帰ったり、家族へのお土産だったり、この街に愛されていることが一目でわかるお店。90円という手軽さがまたすごくいい。家の近くに欲しいお店ですね。

残りの1,000円分のクーポン券を使い、駅前にある「よろづや」でくるみ蕎麦をいただきました。駅の周辺にお蕎麦屋さんは何軒かありましたが、営業時間が短いお店が多くこちらに。くるみ蕎麦は美味しいですね。

上田駅周辺にはいろいろなお店があり、短い時間でしたが街歩きが楽しかったです。上田城や千曲川が近くにあり、山が綺麗に見える。とてもいい場所でした。

明日は始発の電車で信濃川上駅へ向かい、甲武信ヶ岳の毛木平登山口に一番近いバス停「梓山」から歩き始めます。甲武信ヶ岳から瑞牆山まで、晩秋の奥秩父の歩き旅。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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コメント

  1. 上田盆地はお気に入りの場所で、私も何度か信濃デッサン館を訪れました。早逝した画家たちの素描が多く展示されていて、村山槐多の「尿する裸僧」などエゴン・シーレを思わせるような、少しグロテスクとも言える当時は広く認められなかった画家の絵画が展示されていました。前山寺の境内と言うか隣りにあって、かなり前、窪島さんが年齢や経営上の問題からデッサン館を閉館、所有する作品は県に寄付する方向、とか新聞に載りましたが、無言館という形で再出発されたのでしょうか。地図を見ると前山寺の北に離れているよう。窪島さんは水上勉の隠し子とかで、自らの著書で苦悩を語っていますね。
    塩田平は信州の鎌倉とも言われ、塔を持つお寺が幾つもあって、私も前山寺、安楽寺などを廻りました。泊りは別所温泉でなく田沢温泉。藤村ゆかりの木造三階建ての超古風宿。昔はとても安く三部屋続きの贅沢な部屋に泊まれました。あくる日、宿の前に停めた白いパジェロが硫黄泉の蒸気を浴びて変色していたのには焦りました。帰宅してからコンパウンド入りのワックスで必死で磨きました。
    佐久、小諸、上田、またそちこち廻ってみたい。

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