歩き人たかちです。
ピッケルを選ぶにあたり、私が一番悩んだことは"手が小さいことによる痛み"です。指の間に挟んで持ちますが、5分くらいで痛い痛い…
そんな悩みを前職で先輩に相談したところ、おすすめされたのがBlack Daiamond「レイブンウィズグリップ」。握る部分が細くなっていることで手が痛くならない、持ちやすさを重視したモデルです。

こうして、無事雪山デビューを果たしたのでした。実際に使い心地がいいのでご紹介します。特に、手の小さい方は検討の価値ありです◎
ピッケルについて
ストックの無い時代は、夏山にも杖代わりに携行されていたピッケル。今でも、シャフトが木製のピッケルを夏山で使っている人を極稀に見かけます。ウェアやザックも昔のもので、佇まいがすごくかっこよかったり(重そうだけど…)。
[ ピッケルの役割 ]
◾︎ バランス補助の杖
◾︎ 雪や氷を削る
◾︎ 確保支点
◾︎ 氷壁の登攀
◾︎ グリセード・シリセード
現在では雪山装備の一つとなっていますが「雪山だから必須」という訳ではなく、滑落の危険がない山ではストックの方が登りやすいです。しかし、少しでも危険性のある場合はピッケルが無難。
ただ、使い方をしっかり身に付けないとただの杖で、滑落を停止するのは困難です。重装備で、アイゼンを装着した身体で上手く動くことは容易ではありません。ピッケルの使い方と同時に、アイゼンを付けた足の動かし方なども重要になるので、本格的な雪山に登る場合は雪山講習を受けることをおすすめします。
私自身、モンベル(MOC)が主催している雪山講習(木曽駒ヶ岳)に参加。山岳ガイドグループ「イエティ」の方に講習を受けます。滑落停止って難しいんだなあ…と身をもって感じました。特に、ザックを背負った後ろ向きは。その日は完全なホワイトアウトで風速13〜15m/s、技術とともに雪山の恐ろしさも少しばかり知ることができました。

MOC(モンベルアウトドアチャレンジ)
道具や技術面でおすすめの本
雪山選びのおすすめ本
入門〜上級まで、たくさんの雪山コースが紹介されています。
写真がとにかく美しく、読み物として雪山の世界を楽しめる本。記録を中心にルート紹介がされています。中級〜上級のルートが大半。
ピッケルの選び方
ピッケルの部位は大きく分けて「ヘッド」「シャフト」「スピッツェ(石突き)」。細かい名称は以下の画像を参照。
画像出典:モンベル
[ ピッケル選びのポイント ]
◾︎ シャフトの長さ
◾︎ シャフトの形状
◾︎ 持ちやすさ
素材・重量
ピッケルは大きく、ヘッドとシャフトで素材が分かれています。ヘッドの素材の多くはクロムモリブデン鋼、通称「クロモリ」と呼ばれるもの。アイゼンにも使われる、硬い氷にも負けない強靭な素材(シャフトの先端の石突きも大体クロモリ)です。シャフトは、軽さと強度の関係からアルミ合金が大半をしめています。
軽量化で、ヘッドにステンレスやアルミ合金が使われているものもあります。「険しい山には行かず基本的には杖として使用、緊急時以外は使わない」という場合は、携行が楽になるので◎。
素材によって重さが結構変わるので、素材(強度)と重量のバランスは重要。重すぎるといざというときに俊敏に扱えず、軽すぎると強度が心配。
◾︎ 超軽量 = 100〜200g台
◾︎ 軽量 = 300g台
◾︎ 一般的 =400〜500g台
ざっくり分けた重さは上記のような感じ。強度と軽さのバランスがいい一般的なモデルは300〜400g台。100〜200g台の超軽量なピッケルもありますが、使い方は限定されると思います。シャフトが空洞になっていたり、石突きはシャフトを斜めにカットしただけのものであったりするので、万が一があるような山で使用するには心許ないかと。

ピッケルには「B」や「T」などの表記がされており、これは国際山岳連盟(UIAA)や欧州標準化委員会(CEN)によって定められた「規格の品質基準を満たしているもの」を表すマークです。Bは「Basic」、Tは「Technical」の意味。
「B」= 一般的な縦走を含む雪山登山。T規格に比べて比較的軽い。
「T」= ロープを使用するような登攀要素の高い登山。B規格よりも耐久性が高く、重い。
縦走でも、人が歩いているトレースのあるようなルートであれば「B」の耐久性で十分。ロープを使用したり、ピッケルを確保支点として全体重、あるいはそれ以上の負担をかけるような登攀要素が強い場合は「T」を。ピックとシャフトで規格が異なる場合もあります。
シャフトの長さ
◾︎ 肘を伸ばした状態でピッケルを持ち、石突きがくるぶしの辺りにくる長さ
◾︎ 腕を横に伸ばした状態でピッケルを持ち、そのまま石突きを身体側に折り返したときに脇の下を通る長さ
◾︎ 身長から100〜110cm引いた長さ ( *これは少し短めになりやすい)
ピッケルを選ぶ基準は上記のような目安がありますが、一番大事なことは使う山域やシチュエーションです。
画像出典:モンベル
上記の長さは「歩行の補助としても使いやすく、傾斜の強い斜面でも取り回ししやすい」というバランスのいい基準となっています。ただ、バランスがいいだけに杖として使うならもう少し長さが欲しいし、斜面でしか使わないならもう少し短い方がいい。
「身長が〇〇cmだから、ピッケルは〇〇cm」という選び方はしない方がいいです。危険の少ない山で平坦地でも杖使用するなら少し長め、平坦地では使わず斜面での使用なら少し短めなど、万が一のときの扱いやすさに加えてどんな使い方をするかで長さを考えます。男性でも50cmくらいの短いモデルを愛用している人もいます。
しかし、50cm以下の短いモデルだと滑落停止時に雪面に届かない可能性があるので、小柄な人でも最低50cmはあった方が無難です。
私は、身長147cmで55cmのピッケルを使用しています。平坦地で杖使用する場合も短すぎることはない長さ。滑落停止時の取り回しも問題ありませんでした。ザックを背負った状態で後ろ向きに滑落した場合はある程度の長さが必要だと感じたので、結果的に55cmで満足しています。
シャフトの形状
画像出典:GRIVEL
シャフトの形状は湾曲具合に注目。
真っ直ぐな「ストレートシャフト」と、少しカーブのついた「ベントシャフト」があります。ベントシャフは、カーブが緩やかなものからきつめのものまでさまざま。

滑落の危険が少ない雪山であれば杖として使用することがほとんどなので、ストレートシャフトが使いやすいです。しかし、急傾斜が多ければ少しでもカーブしていると雪面に刺しやすくなります。
急傾斜でのベントシャフト
画像出典:LOST ARROW
強めのカーブがついているものは、アイスクライミング的な要素が多いバリエーションルートなどで。雪山では、無雪期のように岩や木の根を掴むことができないため、ピッケルを刺しながら登ります。
握りやすさ(持ちやすさ)
自分が一番悩まされたポイント。
持ち方は、ヘッドのピックが前か後かで変わります。ピックは"転倒したときに雪面に刺さる"方向に。登り斜面なら前、下り斜面なら後ろ向きに。
ピックが前(登り斜面)
画像出典:LOST ARROW
画像出典:ヤマケイオンライン
ピックを前にして持つときは、ヘッドのブレード部分を握ります。
ピックが後ろ(下り斜面)
画像出典:ヤマケイオンライン
手が痛くなるのは、主にピックを後ろに向けて持つとき。人差し指と薬指の間に挟み、中指はシャフトに沿って伸ばします。シャフトが太いと指の付け根が痛くなることが悩みでした。
少し持っただけではわからないので、「最低10分握っていても痛くならないものがいい」とアドバイスされました。アウトドアショップなら、他の装備を相談している間に持たせてもらうといいと思います。
ピッケル周りの小物
リーシュ
リーシュには手首に通す「リストタイプ」と、肩からかける「ショルダータイプ」があります。

リストタイプは左右持ち替えるとき、いちいち手首からリストを外さないといけないのでちょっと面倒。ハシゴなどではぶら下げたまま通過できます。クライミング要素が強い登攀の場合は、リストに荷重をかけて握力を温存できるので、リストタイプが◎。
ショルダータイプは持ち替えがスムーズにできることが大きなメリット。不要時にピッケルを差し込んでおけるループがついているものが多く、杖として使わない場合やハシゴなどで両手を使う場合はしまっておけます。基本的に杖としての使用であれば、ショルダータイプが便利です。
2wayピッケルリーシュ
画像出典:モンベル
リストとショルダーどちらでも使用可能な2wayタイプもあります。

私の場合、購入した「レイブンウィズグリップ」にはリストタイプのリーシュが付属していたので、スリングとカラビナを合わせてショルダータイプに。ピッケルを一時的に手から離したいときは、カラビナにシャフトを通して歩いています。
沢登りで使用していた120cmのスリングしかなかったので半分にして使用していますが、2重にする必要はありません。スリングのベストな長さは身長や体格によって変わるので、お店で試すことをおすすめします。
各カバー

ピッケルを持ち歩く際に必要なものがヘッドと石突きのカバー。ザックに取り付けると石突きが上になり、目の高さにくるのでとても危険です。車で移動する場合も、マイカー規制で登山バスに乗ったり、ロープウェイに乗ったりすることがあるので、カバーでしっかり覆うのが携行時のマナー。
メーカーごとに専用のカバーがあるので、基本的にはそれがベスト。ヘッドの形状や大きさがメーカーやモデルごとに違うので、他のモデルのものを使用する場合は確かめる必要があります。

ヘッドは専用のもの、石突きのカバーはモンベルの「スピッツェガード」。石突きのカバーはモンベルのものがギリギリ入ったのでこれにしてしまいましたが、やはり専用を推奨します。ピッケルの形をしていて、全体をカバーするタイプもあります。

Black Daiamond「レイブンウィズグリップ」

相棒のBlack Daiamond「レイブンウィズグリップ」。使用しているのは旧モデルで、2020年にモデルチェンジしています。
サイズ | 55cm |
重量 |
513g *NEWモデルは486g |

レイブンシリーズの一番の特徴はヘッドとシャフトの接続部が細くなっていて、雪山用の厚いグローブをはめた状態でも非常に握りやすいこと。手袋の厚さや枚数によって使用感は変わりますが、3枚重ねた状態でも問題なく使用しています。
手が小さいことでおすすめされましたが、手の大きさに関係なく握りやすさが追求されたモデルです。指の間にストレスなく挟むことができるため、長時間握っていても痛くなりません。

隣合わせの指の間に入れても痛くない◎
「細い分、強度が弱いのでは?」と疑問に思う人もいるかもしれませんが、CENの基準にはしっかり通っています。そもそもそこまで過酷な雪山には行かず、八ヶ岳の赤岳~横岳~硫黄岳の縦走が今までで一番険しいと思います。雪山はのんびり歩く方が好きです。



シャフトはストレート。下の方にはグリップがついているため、ブレードで雪を削るときや、滑落停止時に手が滑りにくくなっています。

ブレードは肉抜きされ、軽量化が図られています。デメリットは、雪を掻き出すときに穴から抜けること。そんなに使わないので気にしていません。
現在はモデルチェンジで肉抜きはなくなり、より雪を掻き出しやすいデザインになっています。肉抜きなしですが、旧モデルよりも軽量です(2022.10現在)。

レイブンウィズグリップには手首に通せるリストタイプのリーシュが付属しています。手を通す大きさはループを引っ張ることで調整可能。旧モデルは動きがあまりスムーズではないですが、現モデルでは改良されています。
いろいろな山で使用してきましたが、握りやすさは本当にピカイチ。長めの日帰り縦走で常時握っていても、痛くはなりませんでした。過酷な雪山はやらないので、強度・形状ともに必要十分だと感じています。
レイブンシリーズには他に、「レイブン」「レイブンプロ」の2種類があり、用途によって選べます。
まとめ

一度歩くと、その美しさに魅了されてしまう雪山の世界。しかし、無雪期以上に軽々しく入り込むことはできません。
ピッケル自体の重量・強度・形状、そして、雪山をどこまで、どんな風に楽しみたいか。山域や山行スタイルによって選び方が大きく変わるギアなので慎重に。
現在でも、レイブンシリーズよりも持ちやすいピッケルはないと感じています。NEWモデルはさらにブラッシュアップされているので、持ちやすさ重視、手の小さい方はぜひご検討ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
よろしければ、応援よろしくお願い致します。
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