2022.7.23-7.27
歩き人たかちです。
梅雨の戻りのようなグズグズした天気がようやく終わるタイミングを狙い、南アルプス南部の光岳、聖岳、赤石岳、悪沢岳を4泊5日で縦走しました。
この山域はアクセスも大変で、特種東海フォレストの社有林が大きな範囲を占めています。何度も訪れることが困難なだけに、一度に縦走したいと虎視眈々と狙っていました。しかし、コロナにより2年間静まり返り、山小屋は3年ぶりの営業。ようやく…という思いの山旅です。
森林限界が高く、アップダウンは多く、北アルプスのように山小屋は充実していない。食料をすべて持ち、急坂を何度も登って下りるハードな縦走路。
しかし、山深いだけに森はどこまでも美しい。八ヶ岳をもっともっと深くしたような、雨が降ると屋久島の雰囲気もあるような、美しく、険しく、深くて、濃い、南アルプス南部。
★1日目:芝沢ゲートー光岳小屋ー▲光岳
2日目:光岳小屋ー聖平小屋
3日目:聖平小屋ー▲聖岳ー▲赤石岳ー荒川小屋
4日目:荒川小屋ー▲悪沢岳ー千枚小屋
5日目:千枚小屋ー椹島
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往路
◾︎ 毎日あるぺん号(夜行バス)
竹橋駅(23:00)ー伊那大島駅にてタクシーに乗換ー芝沢ゲート(6:00頃)
復路
◾︎ 特種東海フォレスト送迎バス
椹島(12:45)ー畑薙第一ダム(13:45)
◾︎ 静鉄ジャストライン
畑薙第一ダム(14:25)ー静岡駅(17:50)
行程
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天気:晴れ☀︎→曇り☁︎
気温:山頂15〜17℃
風:北北西→北北東 1〜3m/s
芝沢ゲートー易老渡ー面平ー2254m三角点ー易老岳ー三吉平ー静高平ー光岳小屋ー▲光岳ー光石ー光岳小屋
▲コースタイム:10時間10分
▲歩行距離:14km
▲累積標高差:上り 2300m
下り 540m
*コースタイムは昭文社の登山地図にて計算。南アルプス南部は、地図によってコースタイムが大きく変わります。YAMAPでの計画では9時間でした。
公共交通機関のアクセス
夜行バス(毎日あるぺん号)
南アルプス南部の登山口で夜行バスが出ているのは、"畑薙第一ダム"と"芝沢ゲート"。
毎日新聞旅行の「まいたび」が主催する登山ツアーとして"毎日あるぺん号"が運行されています。近場である八ヶ岳や木曽駒ヶ岳、広河原などへの夜行バスも出ており、夏山縦走に重宝する夜行バスです。
ネットでの予約は前日or2日前まで(コースにより異なる)、それ以降は空きがあれば電話受付可となります。電話は平日の10:00〜16:00と縛りがあり、また、繋がるまで時間がかかるので、期限までにネット予約をした方がいいです。
キャンセル料は7日前から発生し、30〜50%ほどかかります。旅行会社としてのキャンセル料なので、他の夜行バスに比べるとお高め。数百円で取り消しができるバスも多い中、こちらは何千円と取られるので、天気を見ながら行く場合は要注意。
むろん、ハイシーズンの週末は特に、早々と満席になってしまうことは多々あるので、直前まで天気優先で考える場合は頭を悩ますのですが(私のように…)。
毎日あるぺん号は普通の4列高速バスのため、快適さはありません。ゆったりでもないし、フットレストもないので、他の夜行バスに比べると身体がきついです。
「女性エリア」や「女性優先」はないので、隣にどんな人がくるか、ソロの人は運次第。それを避けるために、一人で2席使う「Wシート」というオプションがありますが、通常運賃に加えて3,000〜6,000円くらいプラス。山小屋の個室料と同じですね。
マイナーな登山口や、他だと路線バスに乗り換えないと行けない登山口、乗り換え多数の場所(立山室堂)などへの直行便が出ているため、その点ではとても便利です。
*登山バス 毎日あるぺん号*
静鉄ジャストライン
南アルプスの登山線として運行されているのが静鉄バスの"静鉄ジャストライン"。期間中1日1便、静岡駅〜畑薙第一ダムを往復しています。
事前予約制となっていますが、空きがあれば予約なしでも乗車可能。下山時に利用しましたが、水曜日で乗車人数は8人。土日の利用率はわかりませんが、予約サイトの「発車オーライネット」で空き状況がわかるので、残席数が少なければ予約するくらいでいいかと。
予約は前日の19時まで。それ以降の便や乗車位置の変更はできません(取り消しは直前まで可能)。電話の問い合わせ先もありません。
今回、畑薙第一ダムからの乗車で予約。しかし、白樺荘の温泉に入りたいと思い、乗車位置の変更に関して調べましたが、当日は何もできませんでした。一応、静鉄バスのお客さまセンターに問い合わせましたが、南アルプス線に関しては対応できないとのこと。
予約を取り消し、無予約として白樺荘から乗ればいいのかと思いましたが(取消料は100円)、受付終了以降は予約状況などを一切見ることができないため、万一のことを考えて諦めました。
「予約しいてる場所と違うところから乗ってくる人もいる」と添乗員さんは言っていましたが、あの人が来てない、この人がいない、となると迷惑になってしまうので。平日でガラガラだったので、結果としては予約しなくてよかったと思いました。
*静鉄バス 南アルプス登山線*
南アルプス登山タクシー
畑薙第一ダムへ行く方法として、相乗り制のタクシーも期間限定で運行されています。
一人でも予約可能。
静鉄ジャストラインは静岡駅10時発ですが、こちらは11時30分発。前泊だけど静岡駅10時は間に合わないとか、早く行く必要はないという場合は、便利ですね。通常なら2万円程する距離なので、時間は決まっていますが、ソロの人には強い味方。
鳥海山や甲斐駒ヶ岳の黒戸尾根、八ヶ岳の編笠山などでも登山タクシーが実施されていますが、路線バスのない場所では本当にありがたい。
*南アルプス登山タクシー*
特種東海フォレスト
大井川流域の南アルプス南部は、特種東海フォレストの社有林が大部分を占めています。主要な登山口がある東俣林道はマイカー規制がされており、畑薙夏季臨時駐車場〜畑薙第一ダム〜椹島区間は特種東海フォレストの送迎バスが運行されています。
しかし、このバスは特種東海フォレスの管轄である対象の山小屋に最低1泊(素泊まり可)しないと乗ることはできません。テント泊は対象外です。
テント場が満室になっていることは少ないですが、千枚小屋や百間洞山の家、赤石小屋、赤石岳避難小屋など、距離的に日程を組みやすい山小屋は大体満室。
今回は、天候悪化により千枚小屋に空きが出たため泊まることができましたが(縦走中に予約変更)、下山後は林道を歩くか、椹島ロッジに後泊するかで計画していました。
林道は、椹島から畑薙第一ダムまで18km前後。多少アップダウンがあり、落石注意のダートな道。どんな道なのかと実際に歩いている人もいます。紅葉期はマウンテンバイクなどでライドする人もいるようで。
椹島を登山、下山の起点とする場合、山小屋の予約をすることが最優先課題となります。コロナ禍で宿泊人数も限られているので、お金払うから送迎バスに乗せてください・・・という感じではありますね。
山小屋、テント場、送迎バス、すべての予約は特種東海フォレストのHPから。細かく条件が記載されていて、予約方法もちょっと煩雑。予約センターの営業日に合わせての受付となるため、例えば注意事項として「インターネットでのご予約も土曜日、日曜日、月曜日宿泊希望の場合、金曜日16:00までとなります。」と記載されています。
山小屋に直接電話をすることができないため、直前のキャンセルや予定変更が非常に厄介だと感じました。
今回、4日目と5日目の天気が悪くなり、宿泊地の変更やテント場のキャンセルを縦走中に行いました。山の中だと電波が入るエリアは限られ、電波状況も良好ではありません。
「受付終了」となっていると、あきじょうきょを見ることはできず、電話も16時まで。メールもすぐに返事はもらえません。キャンセルに関してはメールを送っておけば無連絡にはならずに済みます。
天気に合わせて行動する山ですが、通常の山小屋とはその辺りが違うので、ご注意ください。
*特種東海フォレスト 施設予約*
2022年南アルプス南部情報
3年ぶりに山小屋、送迎バス、登山バスが再開しました。
避難小屋を含める山小屋、テント場ともに予約制となり、軽食の提供は無し。小屋によっては、宿泊者の食事も中止にしています(聖平小屋や茶臼小屋など)。カップラーメンなどのレトルト食品を購入できる小屋も限られているため、テント泊の場合は基本的にすべての食料を持ち運びます。
南アルプス南部は地図によってコースタイムが大きく変わります。昭文社の登山地図とYAMAPだけでも、全体のコースタイムが2時間くらい異なることも。他の地図や道標記載のコースタイム、すべてバラバラ。昭文社の登山地図が一番ゆとりある時間設定だと思います。
急坂とアップダウンが多く、急坂でも道の状況によって下りやすい、下りづらいなどがあるので、どのコースタイムが合うかは人それぞれ。同じスピードでコースタイムより30分早く歩けるところもあれば、コースタイム通りだったり。いろいろな地図や情報を見て、無理のない範囲で計画するのがいいと思います。
山小屋・テント場
光岳小屋 (県営) |
2022年7月16日~11月3日 管理:川根本町役場観光商工課 *テント場は予約不要 予約・詳細はこちら |
茶臼小屋 (県営) |
2022年 7月16日~9月24日 管理:企業組合井川観光協会 *小屋・テント場ともに予約制 予約・詳細は聖平小屋HP |
聖平小屋 (県営) |
2022年 7月16日~9月24日 管理:企業組合井川観光協会 *小屋・テント場ともに予約制 予約・詳細はHP |
横窪沢小屋 (県営) |
2022年度は避難小屋として利用可 *今年度は無人小屋 管理:企業組合井川観光小屋協会 |
兎岳避難小屋 | 通年利用可 *無人小屋 |
百間洞山の家 荒川小屋 千枚小屋 赤石小屋 中岳避難小屋 赤石岳避難小屋 熊ノ平避難小屋 小河内岳避難小屋 高山裏避難小屋 |
県営・市営 *山小屋・避難小屋・テント場 すべて予約制 詳細は特種東海フォレストHP |
山小屋、避難小屋、テント場、すべてにおいて値上げとなりました。その上げ幅は他の山域に比べて群を抜き、避難小屋素泊まりで¥10,000という高さ。
仕方ないかもしれませんが、以前は避難小屋素泊まり¥3,000だったので、さすがに上がりすぎ…とも思ってしまう。
テント場に関しては、大体10〜20張ほどのキャパで、多くても30〜40張程度。
唯一、予約不要の光岳小屋のテント場は争奪戦になります。宿泊した23日(土)〜24日(日)は天気がよく、15時前にはキャパオーバー。最終的に30張程となり、小屋の方がなんとかしていました。
HP上では「10張程度」となっていますが、それは小屋前のテント場。少し下るともう一つテント場があり、合わせて25張ほど(テントの大きさにより前後)のスペースがあります。
光岳小屋でのテント泊は、早めの到着を。
水場
南アルプスは水場が定期的にあるので、歩きやすい山域だと思います。
ただ、地図に「涸れていることがある」、「涸れていることが多い」と記載されている箇所もあるので、直近の記録などで確認した方が無難です。
光岳小屋近くの"静高平"も「涸れていることが多い」と記載がありますが、7月24日時点では、下と上の2箇所ともジャブジャブ出ていました。時期によっては、上だけしか出ていないことも。この水場が出ているときは、光岳小屋で水を補給することはできません。涸れているときのみとのこと。
小屋から往復20分の場所に水場がありますが、結構な急坂です。静高平から小屋までは15〜20分のため、ここで汲んでいく方が断然楽だと思います。
縦走中は基本的に有人小屋で水を汲みながら歩いていました。ボトルとプラティパスでMAX3L分。アップダウンや急坂が多いため、いつも以上に消費していました。
静高平と荒川小屋の水場は特に冷たく、生き返ります◎
苦しくて美しい。芝沢ゲート-易老岳
*芝沢ゲート-易老渡―易老岳:CT6時間50分*
当初は、畑薙第一ダムへ夜行バスで入り、悪沢岳から光岳へと縦走する予定でした。しかし、週末ということもあり夜行バスは満席。
天気が定まらない中、直前になって好天予報に。どうにか同じ日程で歩けないかと計画を立て直し。芝沢ゲートへの夜行バスに3席の空席があり、勢いに任せてポチっと予約しました。
初めての竹橋駅。地下鉄はとてつもなく苦手ですが、直結ということもありすんなり辿り着きました。毎日新聞社の西口ロビーに登山者がいっぱい。
毎日あるぺん号の利用は3回目。夏山でも、利用することはほとんどありません。
ちなみに、初めて立山へ行くときに利用しましたが、新宿の都庁大型駐車場に辿り着けず(道を聞いた人全員わからず)、15分遅刻。当時は緊急連絡先の記載がなく(現在は記載されていたと思います)、当日の担当者に連絡ができませんでしたが、なんと、愚かな自分を待っていてくれました。あれ以来、出発場所までの道順をしっかり調べて行くようになりましたが、今でもトラウマです。
中房温泉、八ヶ岳、室堂、畑薙・・・各方面へのバスが出ているためわちゃわちゃしています。無事に受付を見つけ、バスに乗車。
芝沢ゲート行のバスは木曾駒ヶ岳、戸台口、鳥倉林道へ向かう人たちと一緒でした。3時半頃、伊那大島駅に到着し、木曾駒ヶ岳と戸台口以外の人はタクシーに乗り換えます。
うつらうつら、頭がぼんやりした状態でバスを下車。伊那大島駅のトイレは利用可能です。40人くらい乗っていましたが、下車したのは10人だけでした。
タクシーは、一般タクシーとジャンボタクシーが一台ずつ。私は一般タクシーに振り分けられ、助手席で睡眠の続き。ジャンボタクシーは鳥倉林道を経由したようです(全員鳥倉林道という可能性も)。
人里を離れ、道はどんどんダートに。狭い林道で、早朝からすれ違いもあり運転手さんもびっくり。ガタガタと走って5時半過ぎ、駐車場がキャパオーバーとなっている芝沢ゲートに到着しました。
駐車場は、30台とか50台とか情報がありますが、見たところ30台くらいではないかと。
登山届を提出し、ゲート前で光岳と聖岳の登山道や電波に関する情報が記載された紙をいただきました。
易老渡までは林道を4.4km。コースタイムは1時間30分となっていますが、非常に緩やかな登りはほとんど平坦と同じで、55分で到着。この区間は自転車で走る人の姿もよく見かけます。
ちなみに、「道の駅 遠山郷」から易老渡まで、指定のタクシー会社なら通行可となっており、3台程のタクシーが通り過ぎていきました。
*道の駅~易老渡間 特定車両通行について*
パンを頬張りながら歩いていると、遠くで聞こえていた救急車のサイレンが近づいてきました。ん?と思ったら、ゆっくりゆっくり去っていきました・・・
この先で何かあったらしい。救急車の音が消えたなーとしばらく歩いていると、地面に仰向けになっている男性を担架に乗せる準備をしていました。周りには3人の登山者。
そこは、林道が一部鉄の橋みたいになっている箇所で、下はガレ場のような感じだったと思います。野次馬にしかなれないので、そろりそろりと通過。
「落ちた自転車はどれですか?」
「あ、あそこの黒いの・・・」
という会話が聞こえてきました。自転車で走っていて落ちてしまった?
鉄の橋みたいなものには細長い隙間が等間隔にあり(模様で例えるならボーダー)、車輪がすっぽり入ってしまうような幅でした。自分だったら怖くて降りて通過すると思いますが、そのまま走って車輪がハマったか何かでバランスを崩したのではないかと。真相はわかりませんが、見守っていた3人のうち1人は自転車のソロの男性、2人は徒歩だったので、怪我をしたのはソロの人か。事故現場に遭遇して救急車を呼んだのかもしれません。救助活動もしたのかも。
いつ、どこで、なにが起こるかわからない。気をつけなければ・・・
易老渡に着くと、自転車が10~15台くらい置いてありました。
リヤカーにザックを乗せてガラガラと押して歩く人たちも。しかし、ガタガタ道でポロポロと荷物が落ちる。拾っては落ちて、拾っては落ちて・・・マットが落ちたのに気が付かず、お渡ししました。この先の便ヶ島まで行くようで、「あと2kmもあるよ~」と。背負って歩いた方が楽では?と若干思いつつ、みんなこの林道区間をどうにかしようと工夫しているのがなんか愉快。
橋を渡らず、便ヶ島方面に少しだけ歩いた場所に沢が流れています。浄水器を使ってここで水を汲みました。この先、易老岳を越えて静高平まで水場はありません。静高平は涸れている可能性もあり、その場合は光岳小屋まで水場なし。
直近の記録で静高平の水場は出ていたので、2.5ℓ汲みました。しかし、易老岳まではひたすら急登。300㎖余ったくらいで、正直ギリギリでした。3ℓ担いでいれば、もっと安心して水分補給できたなと。ザックの重さによるエネルギー消費と暑さにより、今までの急登で一番水を消費しました。暑い時期に行かれる場合は、十分に補給を・・・。
橋を渡り、南アルプスの森へ。
ちなみに、ここはヒルロードでもあります。ヒルが好みそうなジメジメして暗い北斜面。ヒル除けを荷物に追加したくなかったので、家を出る直前に靴に噴射しておきました。8時間以上経ってどれほどの効果があるかは不明ですが、気休めに。あとは、塩とアルコールスプレーをサコッシュに。
ヒルの時期、ヒルの山には登らないようにしているので、小さなヒル除けを使用しています。ソロで使用頻度が少ないなら、こちらの大きさが持ち運びにも便利。大杉溪谷で2日間と今回、ローカットの靴全体に使用して、あと1~2回分くらい残っています。
易老岳までの休憩はザックを下ろさず、座らず。幸い、ヒルの被害には遭わず、ヒルの姿も見ませんでしたが、「橋を渡ってすぐのところで靴を這っていた」という人もいたので、普通にいたようです。雨の日は結構やばいらしいので、ご注意を。
歩き始めてすぐ、急登が始まります。易老岳までは約5kmで1500m弱の標高差があり、前半の半分は特に急。足は常に斜面の角度となり、ふくらはぎがピーンと張ったままの辛い登りが続きます。
初日の食料パンパンザックがエネルギーを奪っていく。後ろを向いて足を休ませ、再び登る。樹林帯で風はこない。立ち止まる度に自然と手がボトルへのびて、水の消費スピードが半端ない。身体の穴という穴から水分が旅立っていく。
嗜好品である珈琲ミルと豆をインスタントにすればもっと軽くなる。いやでも、美味しい珈琲飲みたいし、そこは削りたくない・・・
生米をアルファ米にすれば…でもアルファ米苦手なんだよなとか、いろんな葛藤が始まる。
ザックの重さが憎くなる急登。とはいえ、14kg弱でこんなんになっている次第。歩荷さんって本当にすごいなあ。
しばらく急登を登り続け、ふっと優しくなりました。レンタルテントキャンプ場の「面平」に到着したらしい。看板などは特にありません。
ここは、許可を得たガイドさんと同行することでしか利用できない場所。水場もトイレもないので、エコキャンプいかが?みたいな。でも、ヒルがなあ…
一息ついたら、再び急登。ほんっと、ずーっと、急。
天気のいい土日。光岳のテント場に間に合うか、一か八かで来たけど、そんなことはもうどうでもよかった。どうせ下山もできないし、どうにかなるだろうと投げやり。とめどなく流れる汗もどうでもいい。寝るまでに乾けばいい。
そんな、何もかも本気でどうでもよくなる急登って、たまにありますね。
噂通りだなあ~と、もはや関心しながら足上げ作業を続ける。登山家の田部井順子さんが、「辛くても、一歩一歩登れば必ず頂上に着く」と言っていました。ロボットのように一歩一歩無心で・・・
すると、またまたふっと緩やかになり、地図上の「平らな広場」と記載のある地点に到達ようす。広々した空間で、10人くらいの人が休んでいました。
易老岳まで残り半分ほど。いや、まだ半分ある。いや、半分も登ったんだ。
この辺りから倒木に見惚れていましたが、登り始めに比べて森はより一層深くなりました。ちょっと植生が変わったような。樹種が増え、苔も多くなり、"THE南アルプス"という森に。
光も入るように。
地図から「急坂」という文字は消えますが、急坂の延長に過ぎないというか、延長にしか思えない感じで登り続けます。
幽霊もそこらじゅうで、うらめしや〜
南アルプス南部は屋久島と八ヶ岳を足して2で割ったような森だと感じました。北部よりもやっぱり深いか。どちらの要素もありつつ、ここの個性もありつつ。ブナとか広葉樹の森もいいけど、シラビソと苔の森、好きだなー。
森が深くなって、どこを見ても本当に綺麗で、元気が出てきた。
普段、トレランをしているという男性に道を譲る。「光岳でテント泊ですか?」と聞かれ、そうですと答えると、「いや~今日やばいな~。20人くらいテント泊の人と会いましたよ。テント場パンクですね。」と。予約制ではない小さなテント場。男性はちょっとスピードアップして登ってきたのだと。
前半よりも登りやすくはなったけど、暑さで体力は消耗。地図でパタパタ仰ぎながら登る。日が当たるようになっても日焼け止めを塗る気力はないし、この汗の量では意味もない。
やがて、2254m地点を通過。看板が木に掛かっていたけど、休憩していた人がいてスルー。一応三角点があったらしい。そこを過ぎると、ちょっとした岩場のトラバース。
ここまでずっと土の急斜面だったから岩が新鮮。
狭い岩場にマットをガンガンぶつけながら通過。ここまでくればもうすぐか。
頑張る。
番号が「29」まできました。最後は30?易老岳がゴールではないけれど、今は易老岳に到着することしか頭にない。
そして、ついに、分岐に着いた~◎
やー、長かった・・・
易老岳の三角点は茶臼岳方面に少し歩いた場所にあります。超控えめな看板の下には「30」の数字もちゃっかり置かれていました。
枯れ木の向こうに広がる空は少し曇りがちになっていて、でもそんなこともどうでもよくて、分岐に戻って初めてザックを下ろしました。ヒルがいないか確認して。肩が痛いや。
シダの森とゴーロ。易老岳-光岳
*易老岳-三吉平-静高平-光岳小屋-光岳・光石往復:CT3時間30分*
易老岳から"三吉平"までは、とっても歩きやすくて、素敵な道のり。
緩やかに下っていきます。
シダとシラビソ。本当に美しい。
易老岳までの重すぎた足取りが嘘のように軽い。
森がパッと開けたら、立ち枯れの景色。立ち枯れって、なんか浪漫がある。倒木とはまた違う歴史を背負っているような。
ここでようやく展望。一気に登っていたんだと実感しました。谷からの風が涼しくて、あんなに投げやりな気持ちになっていたのに、このときにはもう、「夏山最高~!」って。山は感情の起伏が激しい。それだけに、自分ともよく向き合える。
これまた素敵な・・・
軽快な足取りで"三吉平"に到着。そして、ここからまた急登が始まる。
前半とは打って変わって、こちらは岩の道。"ゴーロの谷筋"のはじまりはじまり。
岩が激しくなっていく。
振り返る。傾斜も増していく。
でも、足を水平に置ける分、前半の急登よりもいい。
岩が徐々に控え目になっていき、傾斜も緩やかに。お花畑が広がり、なんだか終わりそうな雰囲気。
川の流れが出てきたら"静高平"に到着。
上と下、2箇所水場がありますが、キンキンに冷えた南アルプスの天然水がどちらもジャブジャブ出ていました。ここの水場が出ているときは、光岳小屋で水の補給はできません。涸れているときのみ、補給できます。
光岳小屋の南斜面を下った場所にある水場は往復20分。見るからに急登でした。静高平の水場から小屋までは15~20分で、急登はもうないので、ここで汲んでいく方が断然楽だと思います。
3ℓたっぷり補給して小屋へ。
最後は木道になり、その先に光岳小屋。途中にイザルヶ岳への分岐がありました。晴れ間が出ていましたが、テント場確保のため今日はスルー。
はじめに下のテント場に到着。12:50に着きましたが、この時点では6張で、まだまだ余裕がありました。間に合ってよかった…とりあえずザックを置いて受付へ。
「下のテント場はちょっと離れている」と聞きましたが、小屋まで30秒〜1分くらい。"目の前ではないと"いうだけで、全く問題なし。
小屋前のテント場。こちらは確かに小さめで、テントの大きさによっては10張張れるかどうかという感じ。到着時はまだ5張でした。トイレも近いし便利ではありますが、下のテント場の方が広くてのびのびした感じが気に入ったので、そのまま下に張りました。
受付で、「テント泊の人どのくらいいましたか?」と聞かれ、小屋の人も「今日、やばいですよね~、どうしようかな~」と困り顔。小さなテント場の予約不要は大変だ。
設営して光岳に向かいます。小屋から10~15分くらい。
光岳、登頂◎
展望はありません。小さな山頂には、5,6個の「光岳」という看板があり、主張強め。わかった、わかった、と。
光岳に展望はありませんが、光岳小屋の周囲は開けているので展望がいいです。
ここから10分くらいの場所に"光石"という展望のいい大きな岩があります。ガスなので何も見えませんが、せっかくなので行く。
どんどん下っていく。
ふと、顔を上げた先に大きな大きな岩の塊。と、お兄さんがポツン。
真っ白なガスを見つめて、しばらく立っていました。それをしばらく見つめる私。入り込んではいけないような世界観になっている。
周辺にはお花が咲いていました。ミネウスユキソウ、タカネバラ、ゴゼンタチバナ、ハクサンイチゲ、ミヤマムラサキなど。
お兄さんが動いたところで登りにいきました。真っ白ですが、ガスが絶え間なく流れていて、深くて濃い森の緑をチラチラ見せてくる。これはこれでかっこいい。でも、ここは一体どんな景色なのだろうか。
冷えすぎない程度にしばらく座っていましたが、ガスは晴れず。光岳小屋に戻りました。
ハクサンフウロ
細い茎で、雨にも負けず、風にも負けず。清くて、凛として、逞しい。
15時前に戻ると、テント場は大盛況。上も下もほとんどスペースがなくなっており、小屋の人が「ギリギリまで詰めてくださーい!」と叫んでいました。
小屋近くのロープが張ってある場所を越えてテントを張っている人もいて(テント場ではない)、「このテント違いますか?」と聞かれ、持ち主を探し回っていました。
結局、その人たちは近くでごはんを食べていましたが撤収するよう言われ、場所を変更。「もう少し早く気がつけばよかったですね、すみません。」と小屋の人が謝っていましたが、そもそもなぜロープを越えた?と。
今年山小屋で働いてみて、本当にいろいろな人がいると思いましたが、どこの小屋も大変だなあと。この日は結局30張くらいで、詰めに詰めても入らないテントは、小屋の人に連れられてどこかへ・・・。普段は立ち入り禁止の場所に案内されたようです。
休日で、しかも土日両方天気が良い。小屋は40人から14人まで制限されています。すると、もうてんやわんや。
それが日本の休日で、コロナ禍のアウトドアで、誰が悪いわけでもない。避けられるのであれば避けたい気持ちは、きっとみんな一緒。
小屋の中はこんな感じでスペースが限られていました。ベッド形式でとても寝心地が良さそう。ゲストハウスみたいですね。
夕食のカレーもすごく美味しいようで、空きがあれば泊まってもよかったな〜という素敵な小屋でした。
小屋番の小宮山花さんは、昨年、40年小屋を守ったきた先代の方から光岳小屋を引き継いだとのこと。"BRAVO MOUNTAIN"の連載に、いろいろな奮闘が綴られています。
*BRAVO MOUNTAIN*
今日はとにかく急登の一日でしたが、無事に南アルプス南部に入りました。この先、アップダウンもたっぷりあるし、急坂もたっぷりある。つまり、まだまだ序盤。初日からハードではありましたが、深い、深い、南アルプスを一歩ずつ、味わっていきます。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
よろしければ、応援よろしくお願い致します。
コメント
コメント失礼します。
もう35年ほど昔の話です。パジェロで遠山川沿いの怖いような林道を易老渡に入り路駐。特に駐車場は用意されていませんでした。初冬で他に登山者なし。当時はまともな橋などなくて、遠山川が狭まった激流のすぐ上に、ど太い丸太が渡してあるだけ。おまけに丸太に霜がおりて凍っている! このまま帰ろうかと思いましたが、意を決してピッケルを突きながら横向きになって渡るのですが、激流に落ちるのを覚悟しました。とんでもない出だしです。易老岳まで遠い遠い。光岳への樹林帯ではニホンカモシカと鉢合わせ。彼らは冬、マユミの皮を剥いで食いつなぐとか? 冬枯れのセンジケ原はうっすら白く。昔の小さな光小屋泊。一緒になった登山者と役割分担。水汲み係に。水場は遠くて、重いポリタンを背負っての登り返しはバランスを崩して転落しそうになる。南アルプス深南部のガイドの著作者と同宿するなど、実に思い出深いはるかな山でした。
何となく登山道沿いの針葉樹・黒木の林の密度が下がって、明るくなったように感じられます。季節を変えて、また訪れてみたいですね。