歩き人たかちです。
昨年の夏、山とロングトレイルでソールに穴が空くほど履いたローカットシューズを新調しました。
防水のローカットはずっとSALOMONの「XA PRO 3D GTX」を使用していたのですが、思い切って気になっていた「ALTRA」を試してみることに。
ALTRAは2009年に創業したアメリカのメーカーで、海外で爆発的にヒット。日本でも多くの人に愛用されています。
半年程履いてみたので、ご紹介します。
ALTRAの特徴
アルトラのコンセプトは「自然な走り方」を実現させるためのシューズを作ること。
"ベアフットランニング"という言葉をよく聞くようになりましたが、裸足で走ることです。
実際に裸足で走る人もいれば、できる限り素足に近い感覚で走れるように、ソールを極端に薄くした"ベアフットシューズ"を使用する人もいます。
人間の足が本来持っているバランス感覚や力を引き出すことを目的として、厚底やクッションで足を守るのではなく"鍛える"。裸足に近い環境で走るベアフットランニングが人気となっています。
ALTRAではある程度のクッション性を持たせつつ、自然な走り方、歩き方ができる靴を開発しています。
ゼロドロップ(バランスクッション)
「ゼロドロップ」とは、つま先と踵の高低差がないこと。「バランスクッション」とも呼ばれます。
一般的な靴は踵からつま先にかけて緩やかに下がり、つま先よりも踵の方が1cm前後高くなっている「踵:つま先 =2:1」の比率が採用されています。
しかし、素足ではつま先と踵に高低差がある訳ではありません。自然な感覚で歩けるように、ALTRAのソールは踵とつま先の比率が「1:1」、つまり、高低差のない"ゼロドロップ"となっています。
ゼロドロップにすることで「ヒールストライク」と呼ばれる踵から着地する走り方や歩き方が軽減され、足裏全体を使うことにより自然で正しい姿勢が保たれると。
画像出典:株式会社デサント
ヒールストライクは踵から着地して地面からの反発を利用して前に進みますが、踵から入ると足がのびた状態での着地となり、膝関節や筋肉への負担が大きくなります。それに加え、つま先よりも踵の方が高いと前傾姿勢になり、重心がブレやすく余分なエネルギーを消費してしまいがち。前に倒れないように(前傾姿勢を戻そうと)するために、下半身を中心に関節や筋肉が変に曲がったり、歪んだ姿勢に。
そして、姿勢が歪むと歩いたり走ったりするときに使われるはずの筋肉も使われなくなり、適切なトレーニングができません。
踵とつま先を正常な高さにして不自然な姿勢を正し、自然な状態を作ることがゼロドロップの役割となっています。
フットシェイプデザイン
ALTRAのシューズの見た目で特徴的な点といえば、このガバっと広いつま先。
これは「フットシェイプデザイン」と呼ばれます。
画像出典:株式会社アルトラ
素足なら自由自在に動く指も、つま先が細くなっている靴を履くとギュッと集められて窮屈な状態に。フットシェイプデザインは、足指の自然な広がりを妨げずバランスと安定感を確保し、足本来の機能を発揮させます。
画像出典:株式会社クレーマージャパン
足には3つのアーチがあります。親指から小指の付け根に広がる「横アーチ」、母指球から土踏まずを経て踵に至る「内側縦アーチ」、小指球から踵に至る「外側縦アーチ」。これら3つのアーチがそれぞれ機能することで正常な歩行が実現されます。
足は、甲の中心部分が少し盛り上がった弓状の形状をしています。足を地面に着いたとき3つのアーチが"たわむ"ことで衝撃を吸収するため、アーチがないと衝撃を直接に受けることなり、疲れやすくなったり、足の故障に繋がります。
また、つま先が細く指が圧迫され続けることで、付け根部分の靭帯が引き延ばされます。その結果、外反母趾や偏平足など、歪んだ足に変形。
つま先が広いことで5本の指それぞれに力が入るので、大地をぐっと踏む力も大きくなり、足本来のパワーを発揮できます。
登山靴を選ぶとき、下山時に硬いつま先部分に指(爪)が当たらないよう0.5~1cm程大きいサイズを選ぶので、靴の中で指が動くことは動きます。しかし、"指が開くか"と言われるとそうでもない。
横アーチの機能を妨害することなく、指の力を最大限活かす。これが、ALTRAのつま先のデザインとなっています。
ちなみに、土踏まずのアーチを無理矢理押し上げるようなインソールもありますが、それで矯正することはできません。本来の足の機能を戻すには踵周りを整えることが重要であり、スーパーフィートのようなインソールがお勧めです。
*スーパーフィート HP*
実際に使用してみて
購入したモデル
今回購入したのは、「LONE PEAK ALLWEATHER LOW」という防水のローカットモデル。
インソール | 5 mmコンターフットベッド |
ミッドソール | Altra EGO™とStoneGuard™ |
アウトソール | MaxTrac™ラバーとTrailClaw™ |
スタック高さ | 25 mm |
アッパー | eVent® |
重量(22.5cm) | 250g |
ALTRAの靴はほとんどが"非防水"。蒸れなどを考えると非防水の方が履いていて快適ですが、雨の多い日本でのロングトレイルを考えて防水にしました。日本では渡渉も少なく、お遍路では「防水で良かったな」と。
ただ、蒸れや濡れによって皮膚がふやけると靴擦れや豆の原因になります。非防水のメッシュ生地は蒸れにくいし、乾きやすいのでその点はメリットが大きい。
朝露をバンバン浴びる登山道などでは防水でもローカットでは意味がないので、非防水の方がいいなと感じる場面ももちろんあります(防水は濡れるとなかなか乾かない)。一長一短なので、時期や山行スタイルで検討してください。
ちなみに、冬場は雨が少ないので非防水が多いですが、防水の方が温かいです。
ALTRAの購入にあたって悩ましいことは"在庫があるか"ということ。完売しているモデルも多々あります。近隣の取り扱い店舗では、他モデルも合わせて在庫が全くありませんでした。
取り寄せもできない状態で、唯一あったのは「LONE PEAK 5」23.5cm「履いてみるだけでもいかがですか?」とのことで試着。
普段22.5cmなので大きいですが、足を通してみた印象はやはり"つま先"にいきました。指の部分は「靴を履いていないのでは?」というほど自由に広がる。指一本一本に力が入り、大地をしっかり踏みしめている感覚が強い。
実際のサイズ、さらに防水となると履き心地が変わりますが、帰宅後に調べまくると「STRIDE LAB」というお店のオンラインショップに在庫を発見(現在は売り切れ)。不安を抱えながらも購入してしまいました。
履き慣らしの山から縦走へ
重量は22.5cmで250g程。届いたときは思わず「かるっ!」と声が出ました。履いた感触も特に問題なく、スイスイ足が前に出るような、とても軽やかな履き心地。
試着の際、「ベアフットシューズを履いたことがなければふくらはぎなどが痛くなる可能性があるので、短時間からよく履き慣らしてください」と言われました。
そのため、近所の散歩から始め、近場の低山→7〜8時間程の日帰り登山→縦走という形で履き慣らし。
つま先が広いと幅広の靴に見えますがそうではなく、幅はキュッとフィットしてつま先だけガバっとしている感じ。
右足だけ少し外反母趾気味なので、いつも右足だけ合わないことが多いです。私自身これは大丈夫でしたが、外反母趾で合わない靴が多いという方はご注意ください。ワイドがあるモデルもあります。
ロングトレイルを歩くとき、私は大体右足小指の側面に豆ができます。歩く道にもよりますが、ロードが多めのトレイルだと300〜400kmくらい歩いたところで小指に違和感が。それが豆の前兆で、毎日30km前後歩く中で小指が当たり続けて悲鳴を上げます。
毎回豆ができるわけではありませんが、お遍路のようにロードが多いとできやすい。自分なりに経験を積んで豆ができることは稀になりましたが、初めて歩いたスペインのロングトレイルではもうボロボロ。あちこち豆だらけだし、爪は取れるし、まあ悲惨な状態でした。
つま先がガバっと開いていると指全体、特に小指の窮屈さがない(側面に当たらない)ので、ロード歩きの豆問題も解決できそうです。
今まで使用していたサロモンの靴に比べると足首は薄くてかなりフリーな感じ。サロモンのようなサポート感はありません。厚み、高さ、ともにスニーカーのよう。
サポートのある靴に比べると捻挫などをしやすいと思うので、その辺り(特に下山時)が心配な方には物足りないかもしれません。
ベロ(タン)も薄く、織り込む部分の面積も非常に少なくスマート。ベロの織り込みの厚みに圧迫されて痛みを感じる人もいるので、その辺りは問題なさそうです。
靴紐は丸紐。平紐よりも緩みやすいのは否めません。気になる場合は平紐に交換してもいいと思いますが、滑り具合がちょっと悪くなりそうな感じ。
ミッドソールとアウトソールは合わせて2〜2.3mm程の厚み。
ミッドソールには"ALTRA EGO"という、柔らかい感触で反発力のあるミッドソールが採用されています。
ソールは全体的に柔らかめで、岩の突き上げ感は結構あります。ロードから不整地、岩場などいろいろな道を歩くロングトレイルではいいですが、安定感を求めるなら物足りないと思います。
自然の凸凹を感じながら歩くことも一つの醍醐味かもしれませんが、荷物が重いと疲労も溜まりやすくなります。
グリップも特徴的で縦横斜め。力が分散される方向に配置されています。特に足指部分のグリップは斜めに細かく配置され、グッと踏みこめるように。
しかし、つま先が広い分、今まで履いていたものに比べると靴の中での"遊び(横ズレ)"を少々感じます。靴紐を締め直しても、下山時にはちょっと動きやすいかも。
指の腹を使ってグリップしている感じもありますが、グリップが特別強いかと言われればそうでもない。横ズレが気になる人は気になるかなと。
ソールには"MAXTRAC"の文字。ゴツゴツした厳しい環境でも、グリップ性、摩擦力、耐久性に優れたアウトソールが採用されています。ソールのヘリは割と早めな気がします。
ALTRAのことを調べていたときに気になったことが、つま先部分のラバーが剝がれやすいということ。一応モデルを重ねるごとに改良されているようです。
*2022.9追記*
サロモンのXA PRO 3Dは1,500km程履きました。ソールに穴が空き捨てましたが、防水機能はそのまま。全体的に薄めの靴なので、サロモンに比べると耐久性の低さを感じます。これなら非防水の方がいいかも…
耐久性と保護の度合いはサロモンに軍牌が上がると思いますが、"過度に保護しない"というのも、ALTRAの特徴です。
インソールは少しフワフワして柔らかく、つま先の方まで厚みが同じ。特別厚いものではないですが、硬めが好きな人はフワフワ感が気になるかもしれません。
木曽駒ヶ岳〜空木岳まで2泊3日のテント泊縦走でも、足の疲れをあまり感じずに歩けました。足が軽いのはいいですね。
*ALTRA ONLINE STORE*
気になる点
とても履きやすいのですが、気になる点がいくつか。
踵の出っ張りの引っかかり
山を歩いていて一番気になるのは"踵の引っかかり"です。
ALTRAの靴には踵にこんな出っ張りがあるモデルが多いです。
これの意味がよくわからないのですが、何か意味があるのでしょう。接地面積を多くして安定感を出す?
山を歩いていると、下山時にこの出っ張りがたまに引っかかります。細かい根がはびこる場所や細かい岩場、足の置き場が狭い場所など。
下山はなるべくゆっくり下っているので、ちょっと引っかかっても大きくバランスを崩す程ではありませんでしたが、何度か「おっと!」という感じで危なかったときも。
道幅が狭い場所や急傾斜、荷物が重いときなどは要注意。
泥が乗りやすい
踵の出っ張りに関してもう一つ。ドロドロネチャネチャの道を歩いていると、出っ張りに泥が乗ります。
四角い溝のあるデザインなので、そこに泥が入り込んで洗うのが面倒になることも。
切ってしまおうか…というくらい、この出っ張りは気になります。
インソールの替えがない
中敷きは靴の形状と同じなので、つま先までピッタリ合うものはありません。
中敷きは自分に合うものがいいという人には選択肢が非常に少なく厳しい。そもそも中敷きを変えることでALTRAの特徴である"ゼロドロップ"が無意味になってしまうことも。
中敷きの替えが売っていれば嬉しいのですがそれはなく、調べる「HOSHINO」のインソールの形状が似ていて、かつゼロドロップであると。
初任給を握りしめて買いに行ったGOROの登山靴の中に入っていました。普段GOROを履くときは違うインソールを入れていてあまり使っておらず。
試しに入れてみると割としっくりきました。歩いても特に問題ない感じで、これなら十分使えそうです。
形が完全に一致している訳ではないですが、ホシノのインソールもオブリーク形なので、全然合わないということはありません。硬めが好きな方はホシノのインソールが良いと思います。
ホシノのインソールに関しては、ALTRAを購入した「STRIDE LAB」のHPにも詳しく書いてあります。
*STRIDE LAB BLOG*
ついでに、普段使用しているモンベルの「ドライワッフル フットヘッド」も入れてみました。
しっかりしたインソールに比べると簡易的なものですが、このインソールが自分の足とは妙に相性がいいので愛用しています。
ALTRAに入れてもあまり違和感はありませんでした。ただ、ちょっとヘタってきているのでそのせいかもしれません。これだとゼロドロップが活かせないのでやめた方がいいですね。
2021年にリニューアルモデルが登場。オブリーク型のゼロドロップ。カットすればアルトラと同じ形状で使えると思います。
最後に
過剰な保護のないシンプルさや軽さによる足さばきの良さ、フィット感。特に、指が広がる自由さはとてもいい。ストレスフリーの歩き心地に、アルトラのフットシェイプとゼロドロップの良さを感じています。
ただ、耐久性にはちょっと弱点がありそうなので(防水性を失っただけで、靴自体はまだ使えます)、次回購入するなら非防水にしようかなと。
今はがっちりしたハイカットモデルを履く人も少ない印象で、足元の軽やかさを求めている人は年々多くなっていると思います。
ベアフットサンダル、通称"ワラーチ"でのトレイルランニングも流行っているし、縦走でもワラーチの人いるし、なんなら裸足で山を歩いている人もたまに見かけます。
昔はわらじだった訳で、世の中が便利になればなるほど、快適になればなるほど人は"原始"を求めるのではないかと。
山だからミドルカット、険しい岩場だからハイカットという概念は古くなり、技量、体力、荷物、ハイクスタイルを考慮し、試しながら自分のスタイルを確率すればいいと思っています。
しばらくは、ベアフットに近い「自然な歩行」で距離を伸ばしながら歩いてみたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
よろしければ、応援よろしくお願い致します。
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