熊に遭遇したら?生態と対処法

山 雑 記

歩き人たかちです。

遭遇するまでは自分の中で幻レベルだった野生の熊。しかし2020年の夏、2ヶ月で4回も遭遇してしまいました。それからはとても身近な存在になり、予防策と対処法だけでなく"クマはどのような動物なのか"を学び直しました。まずは相手を知ること。

◾︎ クマと人間の生活環境の境目が曖昧になった
◾︎ マタギの減少により個体数が増えている

これらは、近年におけるクマと人間の接触事故の一番の要因とされています。以前は"里山"という明確な境界があり、人間がいる開けたエリアまでは下りてきませんでした。しかし、各地で里山の荒廃が進み境界がなくなりつつあるため、クマの生活エリアが拡大しています。

また、日本ではクマが陸生動物のトップであるため、クマにとって"マタギ"が一番の天敵です。マタギが減少すれば個体数が増える。個体数が増えると山の食べ物の競争率は上がり、食糧不足で人里へ下りてきてしまう熊が出てきます。他にも"ゴミ問題"など要因は様々ですが、昔の日本が失われるほど人とクマの事故は増えてしまうのかもしれません。

山に入ることは野生動物の棲家にお邪魔すること。野生動物に「何もしません。襲わないでください。」と伝えることは不可能で、人間は遭遇しないように、刺激を与えないようにするしかありません。

しかし、いくら対策を講じても確率は0にならない。だからこそ、"生態を理解する"ことがとても大切。

本や実際に遭遇したときの様子を参考に、ツキノワグマに焦点を当てています。ヒグマは多少異なるので要注意。

*参考文献*
・米田一彦「クマが人を襲うとき」,つり人社,2017/4/24
・小池伸介「ツキノワグマのすべて」,文一総合出版,2020/4/10

ツキノワグマの基本と生態

画像:pixabay

成獣のオスで体長110〜150cm、体重40〜120kg。メスは一回り小さなサイズ。胸に三日月状の白斑があることが特徴のツキノワグマ。稀に白斑がない個体も存在します。

本州の広域に生息し、九州では絶滅、四国では絶滅の危機に瀕しています。野生動物は100頭を切ると絶滅の危機が一気に高まるといわれ、四国からクマが消えてしまう確率は非常に高いとされています。子グマが観察されているので繁殖をしていないわけではないようですが、個体数が増えるわけでもなく、細々と暮らしているようです。

2020年に剣山と石鎚山、そして四国お遍路を歩きました。四国の奥山には美しい森がありましたが、東北など生息数の多い地域に比べると四国全体でスギやヒノキの人工林はやはり多い。食べ物の少なさも増えない要因といわれます。

ツキノワグマは別名「アジアクロクマ」と呼ばれ、アジアの広い範囲に生息。しかし、台湾や韓国などでも急速に個体数を減らし、分布域は狭くなりつつあります。国際自然保護連合のレッドリストでは"危急種"に指定。世界的に減少している中、日本は最も安定した個体数を確認できる国だとされています。

ツキノワグマの特徴

◾︎ 植物食傾向の雑食
◾︎ 木登りが得意
◾︎ 走ると最大時速40〜50km
◾︎ 嗅覚が非常に優れている
◾︎ 学習能力が高く、記憶力がいい
◾︎ 執着心が強い
◾︎ 寿命は野生で20年前後
◾︎ 臆病な動物

[ 植物食傾向の雑食 ]

ツキノワグマは、基本的に植物や昆虫を好んで食します。シカやカモシカの死骸も食べますが、生きている個体を積極的に襲うことは多くありません。また、ヒグマのように魚を取ることもあまりしないとのこと。

動物性のタンパク質は主にアリなどの昆虫から接種しています。あれほど大きな身体なのに植物を中心に食べていると思うと、大人しい動物であると感じます。

[ 木登りが得意 ]

画像:pixabay

ツキノワグマの爪は長さ3〜5cmほど。湾曲がキツめの形状で、爪が木にしっかり引っかかるため木登りを得意とします。ちなみに、ヒグマは木登りがあまり得意ではないようです。

耳はまんまるでミッキーマウスのよう。実際に遭遇したときも、耳かわいい…と思ってしまいました。

[ 走るのが速い ]

最大時速40〜50kmで走るクマ。100mに換算すると7〜9秒、追いかけられたら逃げ切れません。自転車でも厳しい速さです。

肩甲骨周りの筋力が一番発達しており、力強く走ることができます(木登りにも優位)。

[ クマの知覚 ]

知覚で一番優れているのは"嗅覚"。鼻にはあらゆる神経が集まり、臭いの他に温度も感知していると考えられクマにとって非常に敏感で重要な器官となっています。クマの嗅覚は犬よりもはるかに優れていて、数キロ先の臭いも嗅ぎつけるといわれます。

人間の気配も臭いと音で識別しているとされ、警戒したり、周囲を確認するときは立ち上がってより高い位置の臭いをキャッチ。人間が出した生ゴミの放置などが林道や山岳地帯でも問題となっていますが、食べ物の管理を怠ると事故に繋がります。

「聴覚」に関しては犬と同じように"超高波"を聞くことができる可能性が高いそうです。低音には鈍い傾向があるため、熊鈴などは遠くまで響くような高めの音が出るものがいいとされています。

しかし、食べることに集中していると嗅覚も聴覚も鈍くなるので、人間も集中しがちな"山菜採り"は特に注意。山菜採り中の接触事故は非常に多いです。

「視覚」は他の器官に比べてあまりよくないとされ、色の識別は難しいようです。その代わり、形を識別する能力が優れ、動体視力は人間と同程度かそれ以上といわれます。

[ 学習能力 ]

クマは学習能力が非常に高く、記憶力がいい動物です。嗅覚、聴覚、視覚によって得た情報を元に行動しています。また、記憶力の良さを活かして、長期に渡り同じ食料源(食物源)を利用していると考えられています。

執着心とともに、詳しくは後述しています。

[ 熊の寿命 ]

野生のクマの寿命は20年前後といわれていますが、作物の状況や天候、その他病気などにより大きく変わります。動物園で飼育されているクマの中には30年以上生きる個体もいるようです。

日本ではクマを襲う動物がいないため、一年生き延びれば死ぬことは多くないそう。冬眠中の雌グマが雄グマに襲われたり、堅果類が不作の年の共食いも稀にあるようですが、日本の場合、クマの死因で一番多いのは"有害駆除"

国土が狭い中で個体数が安定しているせいか、世界と比べてもクマと人間の事故は日本が断トツに多い状況。人間を襲った記憶や人間を食べた味は遺伝で受け継がれるといわれます。そのクマの子どもも人間を襲うクマとなってしまうため、そのような行動に出たクマは駆除の対象。

[ 臆病な動物 ]

クマは非常に臆病で大人しい動物で、基本的には人を避けて行動します。しっかりと存在を知らせればクマの方から遠ざかりますが、出会い頭に遭遇した場合は身を守るために攻撃をしてきます。

食べることに夢中で気がつかないことの他、トレランやマウンテンバイクなど、スピードのあるアウトドアは出会い頭の確率が高いので要注意。

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子連れ、繁殖期、人家周辺に出没したクマは特に怯えているか興奮状態にあるので、少しの刺激で攻撃を仕掛けてきます。また、クマは隠れる場所のない"丸見えの開けた場所"を嫌うため、田畑や人家などの開けた場所に出没したクマはビクビクしていてとても危険。逆に、森のクマは生活圏で落ち着いているため、出会い頭にならなければ襲ってくることはほとんどありません。

しかし、個体によって性格が大きく異なるので、攻撃的な性格の場合は森の中でも襲われます。科学的な定説はないとのことですが、近年は人間を恐れない"新世代クマ"が増えているようです。これにも里山の荒廃が一つの要因とされ、荒廃した里山が奥山のようになった結果、クマがそこまで下りてきます。しかし、人里や道路、キャンプ場などが近いことが多く、車の音や人間に慣れてしまったとも考えられています。

涸沢から上高地への下山時、横尾山荘前の横尾大橋のすぐ近くでクマに遭遇しました。女性の方が立ち止まっており、今さっきクマが横切ったと。気配がなくなり女性が先に歩きだし、私も同行者と歩き始めると少し先の斜面にまん丸の耳を発見。岩の上にでーんと座って登山道の方を向いていました。女性は気が付かないままクマの前まで到達しており、その距離は5〜6mほど。

女性が通過後、笛を少し鳴らすとチラチラ振り返りながら斜面をゆっくり登り出しました。いきなり大きな音を出すのは危険なので静かに見守るのが一番いいですが、反対側の人に知らせるために少し笛を吹きました。

人が常に通る横尾大橋の近くにいるだけあって、人間への恐怖心は全くない様子。他の山域で出会ったクマは一目散に逃げていきましたが、このクマは「しょうがないなあ〜」という感じ。これが人間慣れしたクマなのかと、怖さも感じました。

クマが怖がっているもの

クマが一番怖れているものは"成獣のオスグマ"といわれます。

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出産した母グマと子グマの冬眠が終わり繁殖期になると、オスグマによる"子殺し"が行われます。これは、繁殖活動を行うためのオスの行動。母グマは子離れするまで発情しないため(1.5〜2年ほど)、メスの発情を促すために子どもを故意に殺します。そのまま子グマを食べてしまうことも。

子グマの死因のほとんどはこの子殺しによるもの。母グマは子どもを殺されないように、オスグマを非常に警戒しています。子殺しはツキノワグマに限らない自然な行動ですが、産まれたときからオスグマを恐れて生きているため、成獣になっても同属のオスグマを最も恐れているとされます。

大型のバイクは、車体の大きさやエンジン音が成獣のオスグマに似ているため一番怖がるようです。クマはオスグマの重低音の吠え声を嫌うので、エンジンをふかすと効果的だといわれます。自転車の場合は持ち上げたり、地面に打ち付けると効果的。後述していますが、遭遇した際は"大きく見せる(成獣のオスグマに思わせる)"ことがポイント。

行動範囲

クマは縄張りが特になく、行動範囲が広い動物です。生活圏は成獣のオスで最大100〜200平方キロメートル以上に達し、成獣のメスはその半分から4分の1程度と推定されています。広島県の江田島で大体100平方キロメートル。

繁殖期を除いて常に食べ物を探し歩いていますが、冬眠前の飽食期である秋は行動範囲がとても広くなります。ブナやドングリなどが凶作だと遠く離れた場所まで探しに行き、行動範囲は1日で20〜30km四方に及びます。

普段は人があまり立ち入らない奥山で生活しているクマですが、これだけ移動すれば人間との接触も必然的に多くなります。また、人間の生活空間の広がりも遭遇の一因となっています。

活動する時間帯

クマの行動は夜明けとともに始まり、日暮れとともに終了。季節により多少異なりますが、基本的には人間と同じく"昼行性"。また、低気圧が来る前の高気圧に覆われる日は活動が活発になる傾向があるとされ、これもアウトドアを楽しむ人と同じ。

◾︎ 6時前後 → ピーク
◾︎ 12時前後 → ちょっと休憩
◾︎ 13時・18時頃 → ピーク
◾︎ 20時前後 → そろそろ寝るか
◾︎ 真夜中 → 長時間休憩

森のクマは上記のようなパターンですが、注意すべきは人里に出没するクマ。人里に現れるクマは人が寝静まるのを待ってから活動するので、夜行性に変わります。

季節ごとでは、冬眠直後の4〜5月は体力が低下しており、徐々に回復されるため寝たり起きたりを繰り返します。睡眠時間が多くなるので、行動時間が少なくなりがち。

6〜7月の繁殖期、オスは餌よりも発情したメスを探して広範囲を動き回るので活動時間が増えます。また、出産したメスグマは子育てに専念するため、こちらも活動時間が増えます。

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8月の盛夏は1年の中で一番活動時間が短い季節です。盛夏は暑さを避けるため朝夕の涼しい時間帯が活動の中心に。昼間は木の上などで寝ていることが多く、1日の活動時間が減ります。

9月頃からの飽食期はとにかく食べることに専念。早朝や夜の活動時間を増やし、睡眠時間を削ってまで脂肪を蓄えます。早いと朝の4時頃から活動を開始し、途中に睡眠を挟みながら日付が変わる頃まで活動。そのため、実りのピークである10月は一番活動時間が長くなる季節。食べ物が少なくなる晩秋には徐々に活動時間を減らし、冬眠の準備を整えます。

嫌いな場所

クマは隠れるもののない開けた空間に出ると恐怖を抱きます。ビクビクして興奮状態にあるので、そのような場所で人や車に遭遇すると攻撃対象が存在しなくなるか、自分が逃げて隠れるか、殺されるまで攻撃を続ける傾向があります。

2009年、乗鞍岳の畳平バスターミナルでクマの襲撃事件がありました。山から下りてきたクマが乗鞍スカイラインを横切る際に観光バスに接触、逃げようとするも駐車場の鉄柵やら様々なものに阻まれパニック状態に。そのままバスターミナルに飛び込んでしまい、多くの人間に遭遇。興奮状態はMAXで次から次へと人が襲われました。

スカイラインのような道路が伸びていたり、大きな観光施設がある場合はこのような事態になることも。クマからすればいきなり山が分断されていて、そこに多くの車や人がいるというパニック必須の環境なので要注意。

登山道で怖いのは、このような熊笹が覆い茂る道。周囲が見えないため、出会い頭の確率が上がります。

上の写真は越後駒ヶ岳でクマと遭遇した場所。秋の連休で前も後ろも人が多く歩いていたので、遭遇しないだろうと思っていました。しかし、通過しようとした矢先、すぐ横の熊笹がガッサガッサ大きく揺れる揺れる…。咄嗟に後退し見守りつつ、こちら側に出てきたらどうしよう…と恐怖心に襲われましたが、反対側に逃げたようで出会い頭にはなりませんでした。

熊笹の向こう側には池があり、快適そうな場所だったので休憩中だったのかもしれません。尾瀬で初めて遭遇したときも熊笹の環境で、もし登山道側に出てきてしまったらと思うと本当に恐ろしい。

尾瀬では7月の朝5時頃、見晴から尾瀬沼へ向かう途中で遭遇しました。4人で歩いていたので鈴は鳴らさず。越後駒ヶ岳もシルバーウィークで人が多かったため鳴らしていませんでした。常に鳴らす必要はないと思いますが、見通しの悪い場所では"通らせていただきます"の合図をした方がいいですね。

学習能力と執着心

臆病なクマは、経験のないことに対してはとても慎重に行動します。しかし、一度経験するとそこから学習し、何度も繰り返すように。一度でも人里のエサや人間が出した生ゴミ、あるいは人間そのものの味を覚えてしまえば「人間(人里) = 餌」だと認識するようになります。

ツキノワグマの人狩りは極めて稀なこと。クマが人を襲ったあと食害に至るのは"血の臭いに食本能が覚醒される"可能性が高いと考えられています。

シカなどの死骸を食べるとき、一度には食べきれないため土や枯葉をかけて横取りされないように隠します。山の中でこのような死骸がある場合は、近くにクマがいる可能性が高いので危険。

山小屋では小屋閉め後、晩秋〜春または夏の小屋明けまでの間にクマに荒らされることも少なくありません。一度荒らすと、そこに食べ物があるということを学習し執着するため、山小屋周辺をずっとウロウロしていることもしばしば。

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常念岳の近くの常念小屋はクマの目撃が多い場所。同じ個体が毎日のように小屋の周辺をウロウロしている年もあります。人間を怖がる様子もなくウロウロ。人間への警戒心を上回るほど食べ物に執着心を抱くので、山小屋周辺で何らかの食料を得たのではないかとも考えられています。

クマは自分の好物がある場所で、それがなくなるまで、殺されるまで停滞する習性があります。そのような場所には複数の個体が集まりやすく、また、食べた場所で休む習性もあるので、秋のキノコ狩りなどは特に注意が必要です。

ドングリの凶作の年に"街でドングリを集めて山に撒く"という取り組みをしている団体がありますが、これらのドングリには"人間(人里)の臭い"がついています。嗅覚が鋭いクマは、この臭いのある場所へと食べ物を探しにいくので、このような行為も人里へ誘引している要因だといわれます。

堅果類の凶作は"子孫を食べ尽くされないための生存戦略"とも考えられ、「山に食べ物がなくて可哀想だ」という理由で自然を操作してしまうと、結果的に生態系全体のバランスを崩してしまいます。凶作豊作によってクマの個体数も増減するので、危機的な状況でない限りそっとしておくことがお互いのため。

季節ごとの行動

冬眠中〜冬眠明け

ツキノワグマは数ヶ月から長いと半年以上冬眠します。冬眠から目覚めるのは、成獣のオスと出産をしなかったメスが一番早く4〜5月頃。出産をしたメスと子グマが一番遅く5月中旬〜下旬頃に出てきます。

冬眠の間、妊娠したメスは1月下旬頃に1頭か2頭を出産、まれに3頭産む個体もいます。子グマは生まれたとき300gほどで、5月初め頃まで安全な穴の中で子育てをします。出てくる頃には体重2〜3kgまで成長。

クマは、オスメスともに産まれてから3〜4年で繁殖活動を始めます。メスは2〜3年おきに出産。子育てはすべてメスが担い、オスはノータッチです。

冬眠中のオスグマと出産のなかったメスグマに関しては、冬眠を妨害された場合ためらわず穴から出て攻撃してきます。あるいは走って逃げます。冬眠中でも身体の各部位の血流は十分に確保されているようで、刺激を与えると瞬時に反応。

体温を5℃くらいまで下げて仮死状態で冬眠するリスやヤマネと違い、クマは体温を30℃くらいまでしか下げません。冬眠中は摂食、飲水、排泄を一切行いませんが、実際には尿が作られていてその尿を再利用して筋肉の形成に必要なタンパク質を作ります。冬眠中や冬眠明けにすぐ動けるのは、冬眠中でも筋力が衰えない仕組みになっているからです。

初夏(6月)

6月はクマが人に異常に興味を示す時期。この時期はどのクマも緊張状態にあり事故になりやすいです。また、日も長く、人間も早朝から夕刻まで活動するため遭遇率が上がります。

6月は繁殖期で、オスは発情したメスを探すため広範囲を動き回ります。メスが発情するのは数日〜10日程度といわれ、この期間のオスは食べ物よりもメス探し。非常に興奮状態になっていて、人間をメスグマと勘違いして付け回すこともあるようです。

クマは普段単独で生活していますが、相手が見つかるとともに行動する時間が増えて交尾に至ります。しかし、受精卵はすぐに着床せず浮遊したまま成長がストップ。食べ物の不作などがなく十分に栄養を摂取できた個体は受精卵が無事に成長し、着床して秋に大きなお腹になるという特殊な仕組み。

これは「着床遅延」と呼ばれます。十分な栄養を取れなかった場合妊娠出産に失敗する可能性が高いので、種を存続させるための仕組みではないかと考えられています。そのため、豊作の翌年はベビーラッシュとなりやすいです。

2018年はブナもドングリも豊作となり、妊娠に成功したクマが多かったようです。そのため2019年はベビーラッシュ。2019年と2020年は目撃情報や捕獲数が増加しました。

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子連れの母グマはオスグマによる子殺しから子グマ守るため、他のクマや人間との接触をしないよう慎重に行動します。生後4ヶ月程の子グマはまだ逃走できないため母グマが襲う範囲は狭く、威嚇のみの場合が多いです。襲ってきたとしても、深追いはせず重症になりにくい傾向にあります。しかし、生後5ヶ月以上、木登りができるようになる7月頃からは積極的に反撃するようになります。

クマの親子は約1年半ともに過ごし、2回目の冬眠を経たあとに子離れします。子離れ前の4月〜6月は"親離れ訓練"が猛烈に行われる時期であり、非常に事故が起こやすくなります。

人と遭遇すると子グマが騒ぎ立て、母グマの攻撃を促します。母グマは子グマが騒ぐのをやめるまで攻撃を継続する傾向にあるので非常に危険。また、1歳を過ぎた子グマを持つ母グマは成獣のオスとも闘います。親離れ訓練が終わると徐々に親元を離れていきます。

盛夏(7-8月)

暑さもあり、1年の中では活動時間が最も短くなる時期。

7,8月頃には、その年に産まれた子グマも活発に動くようになります。子グマが動けるようになると母グマも反撃に出やすいので、盛夏の子連れグマとの接触は非常に危険です。

クマは基本的に森林で生活していますが、雪解け後の高山植物の開花に合わせて高山帯にも登ります。ハイマツの実や高山植物も貴重な食料。

8月中旬の北アルプス、黒部五郎岳に向かう途中の北ノ俣岳を過ぎた場所でクマに遭遇しました。開けた場所なのでこのときも熊鈴を鳴らさずにルンルン歩いていましたが、20〜30m先のハイマツがガッサガッサ…

あ、やばい…と思って後退すると、ハイマツからクマがジャンプ!そして、斜面を猛ダッシュで走り去りました。クマの姿を見たのはこのときが初めて。距離が離れていたので落ち着いて行動できましたが、臆病なクマでよかったと安堵。

高山植物がなくなる9月中旬頃には、堅果類を求めて森林に戻っていきます。

秋(9-11月)

9月を過ぎると食べることに専念した"飽食期"に入ります。この時期は食べ物を探し求めて行動範囲が非常に広くなり、行動時間も長くなるため人間との接触も多くなる時期。

飽食期のクマは脂肪を30%近く増やし、準備が整うと11〜12月頃冬眠に入ります。

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秋に一番多いのは、キノコやクリ、クルミの採取中の事故。一箇所に滞在する時間も長く、屈んで作業するため見た目も小さくなり攻撃されやすくなります。

クリやクルミの木の上、あるいは茂みの中で休んでいる可能性も高いので要注意。人間もクマも集中しすぎてお互い気が付かず、出会い頭になることが多いため重症化しやすい時期です。

堅果類の不作で十分に脂肪がつかなかった場合は、早々と冬眠に入ります。逆に、豊作だと栄養状態が良くなり寒さに耐えられるため、雪が降り始めても柿や人間の生ゴミ、残飯を探して人里近くを徘徊するクマも出ます。必ずしも"人里に出没するのは山に食べ物がないから"という訳ではありません。雪の降る12月頃、人里の柿を食べに来ているクマのニュースが以前ありました。あの個体も栄養状態が良く、ギリギリまで動いていたのかもしれない。

有害駆除で撃たれたシカがそのまま放置されていることも多く、"寒い時期でも食べ物が手に入る"ことを学習しつつあるクマもいるようです。そうなると冬眠をしないクマも出てきます。台湾に生息するツキノワグマは冬でも食べ物があるため、冬眠をしないそうです。

クマの食生活

芽吹きの春

早いクマで4月頃冬眠から目覚めますが、その頃はまだ木々が芽吹く前で食べ物に乏しく、前年の秋に落下した堅果類を探して食べています。豊作年の翌春にはたくさん落ちているので、食料の少ない時期でも困りません。

木々が芽吹き始めると、芽吹いた直後の広葉樹の葉や花を主食とします。特にブナはクマの大好物。タンパク質を多く含み、繊維質の少ない樹種の新芽は好んで食べます。多くの樹種は葉の成長とともにタンパク質が減少して繊維質になるため、クマがこれらを主食とするのは消化のいい芽吹いた直後の限られた期間です。

下生えの草も芽吹き直後を好みますが、樹木の葉に比べると柔らかいため長い期間主食とします。特に茎の背が高く、多肉質のシシウドやフキ、テンナンショウ、ササノコなどを好みます。

その他、雪崩や餓死によって死亡したシカやカモシカも春の貴重な食料です。

生き物が蠢く夏

新芽が終わり、生き物が活発に動き出す頃、昆虫では"アリ"が重要な食べ物となります。アリは一つの巣に数多く生息しているため、クマにとってとても効率の良い食料。外見からするとアリでお腹を満たしているのは不思議な感じですが、アリの巣を探して食べ歩いています。

日本には、初夏に結実させる樹木はあまり多くないので、クワ、コウゾ、サクラ類の果実を探して食べます。また、初夏は"質より量"を重視するので、ヒノキの内皮やタケノコなども食します。ヒノキの伐採現場にクマが集まっている事があり、これは、切り株の樹液に引き寄せられているのではないかと考えられています。

植物に合わせて徐々に標高を上げ、7月頃に雪渓や雪田周辺に芽吹いた直後の草本を食べます。高山植物やハイマツの実は貴重な食料。

ミズバショウも大好物。クマは、見頃を過ぎて化け物のようになったミズバショウを食べにきます。尾瀬では5月〜6月上中旬頃ミズバショウの見頃を迎え、その後6月中下旬頃からクマが湿原に出没しはじめます。

実りの秋

高山帯に上がったクマも、晩夏にはミズナラやブナが生育する標高の低い場所へ戻ります。

ミズナラは東日本でのクマの主食。ブナの果実に比べて脂肪は少なく栄養価は低いですが、ブナの実に比べて大きく、デンプンを多く含んでいます。また、数年に一回は豊作の年を迎えるため、大事な食糧源。

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秋に実るドングリで1年間に摂取するエネルギーの約80%を取るといわれます。秋の3ヶ月で1年分のエネルギーを摂取することになり、ドングリだと1日に約3,000〜4,000粒ほど食べる計算。

クマの大好物であるブナの実は栄養価が非常に高い食べ物。脂肪が多く、苦味もなくとっても美味しいのですが、5〜8年に一度しか豊作にならないため、クマにとってブナはご馳走。ブナとドングリの凶作が重なると、人里への出没も多くなります。

他にはミズキの実。果肉があり、脂肪も多く栄養価が高い。ミズキの実は実りの期間が長いため、ブナやミズナラが少ない地域では主食となります。

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蔓植物では、ヤマブドウ、アケビ、サルナシなど。これらも実りの時期が長いため、ブナの実が実る前後に食べています。堅果類が不作の年には、蔓植物が貴重な食糧源。

クリも食べますが、クリは他の実に比べて食べるのに時間がかかるため効率の悪い食べ物とされています。しかし、クリ園のクリは野生に比べて実が大きく、一箇所で大量に食べられるため人里誘引のきっかけに。

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冬眠が迫ってくると、魚類や昆虫といった動物性の食べ物を摂取する傾向にあります。植物だけでは得られない動物系の栄養を昆虫などで補います。

夏から秋にはイナゴやカマドウマなどのバッタの仲間を。これらは特定の環境に生息するため、他の昆虫に比べて効率よく捕らえられることがポイント。また、イナゴは稲穂に集まりますが、収穫後に落ちている稲穂も大事な食料となっています。

クマによる攻撃

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クマは初撃を爪、とどめを牙で攻撃してきます。

狙ってくる部位は"首"。これは、シカやカモシカを襲うとき、喉に噛みつき窒息させるため。しかし、人間の場合は頭が高い位置にあり、他の動物のように首が長くありません。反射的に顎を引くことが多いので、立っている状態で攻撃を受けると顔を負傷することがほとんどです。

また、クマは動いているものを攻撃する習性があります。初撃で頭部を負傷したあと、手や腕を動かせば上半身、足を動かせば下半身を攻撃されます。そのため、顔を手で庇ったりする動作をすると手腕に、転倒して足で反撃すると足部の負傷が多くなります。

グループで遭遇した場合も、動いている人を積極的に襲う傾向が強いです。誰かが逃げ出してしまった場合、不動の人を無視して追いかけていくことがほとんど。また、左右(横移動)に動くものに対する動体視力がいいため、左右に逃げることは厳禁。必ず"後退り"をします。

ドングリ類が不作だと地面にはあまり落ちていないため、樹上での採食が多くなります。登っている木の下は自分の支配空間であるため、安易に近づくと排除しようと攻撃してくるので要注意。

上記はクマ全般に共通する攻撃ですが、2歳くらいの若いクマ、成獣、子グマなどでも攻撃の仕方が変わります。

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[ 子連れの母グマ ]

逃走できない数ヶ月の子グマを持つ母グマの反撃は数メートル以内と限定的。威嚇で終わることも多いですが、襲われたとしても短時間、軽症の傾向。子グマは寒さにとても弱いため深追いはしません。1歳を過ぎた子グマを連れる母グマは積極的に反撃してきます。

[ 子グマ ]

子グマは攻撃の仕方が定まっていないため非常に無駄が多く、長時間抱きつき噛みついてきます。さらに、母グマが近くにいることにより強気な攻撃。長時間の攻撃で相手を消耗させ、反撃してもしつこく攻撃してくるので重症化しやすいです。身体も大きくないので主に下半身に噛みつくか、背後から抱きついてきます。

「子グマだから」という油断は禁物。柔軟で運動能力が高いことも子グマの特徴。体長80cm程になるとシカやカモシカを襲うときのように、頸動脈を狙ってきます。

クマに引っ掻かれて負傷すると傷口から菌が入り"破傷風"になる恐れがあります。長時間引っ掻かれたり、噛まれないようにして、傷口を増やさないことが重要です。

[ 若いオスグマ ]

繁殖期には性的興奮状態にあり、しつこく攻撃してくる傾向があります。初夏は"抱きつき"が多いですが、これは繁殖期特有の行動。若いクマはあらゆるものに興味を示すため、人間に対する警戒心も低いと考えられています。

一方で、秋の飽食後は満たされているため精神状態も安定し、抱きつきの攻撃を受けても軽症である傾向も。

[ 成獣のオス ]

成獣のオスは攻撃に無駄がなく、一発バシッと攻撃して去るという短時間(数秒)の攻撃であることが多いです。初撃の爪のよる攻撃を頭部に受けないように。

ちなみに、犬連れで遭遇した場合は重傷か軽傷の両極端であることが高いといわれます。犬がクマを怒らせてしまうと人間と犬ともに攻撃されることが多くなるようです。イヌがクマを引きつけて人が助かる場合もあるため、どのような展開になるかは犬次第。犬を連れているから安心という訳でないことを頭の片隅に。

対策と対処法

まずは"存在を知らせる"こと。また、出会ってしまったときの行動により、重症か軽症か無傷かに分かれます。

クマに出会わないようにする

◾︎ 音を出して存在を知らせる
◾︎ 2人以上で歩く
◾︎ クマの痕跡に要注意

錆びていますが、これはリーンリーンと高くて澄んだ音の出る熊鈴。

クマは、ガラガラとした低音よりもリーンリーンと高くて鋭い音に反応します。鉄板や銅板で作られた低音の鈴やカウベルタイプよりも、真鍮製などの高く遠くまで響くタイプの方が効果が高いとされます。

低音の鈴は沢の音で掻き消されることが多く沢沿いで思いっきり鳴らしながら歩いたことも。高音の場合は沢の音に負けず、遠くまで響きます。物足りない場合は、定期的に声を出したり手を大きく叩いたり。ラジオは熊の接近音に気が付きにくいこともあります。

笛を使用する場合は、大きな岩の裏側や先の見えない曲がり角、茂みの濃い場所、実のなる木の近くなどでの出会い頭を避けるため、立ち止まって音を出します。

熊鈴は、必要ない場所で音を消せる"消音タイプ"がおすすめです。

"南部熊鈴"は昔から林業や山菜採り、釣りなどの山の仕事や生活で使われてきました。異なる音を組み合わせて、とても素敵な音色です。

単独で山を歩くよりも、2人以上のグループで歩く方が遭遇率は下がります。人の足音や声が賑やかになるほど避けてくれるので、クマが頻繁に出没するエリアではグループ登山の方が安心です。

山を歩くときは野生動物の"フィールドサイン"に要注意。クマの場合はフン、爪痕、クマ棚など。特にわかりやすいものはフンと爪痕。クマのフンは拳大くらいの大きさで、色や臭いはそのとき食べたものによって様々です。ツヤツヤとテカリがある場合はそれほど時間が経っていないので、近くにいる可能性があります。1〜2日程度は湿気を帯びています。

爪痕やクマ棚は、堅果類を食べたり、昼寝のために登った痕跡。爪痕を頻繁に見つけるようだと近くにいる可能性があるので、速やかに立ち去ります。クマ棚は葉が茂っている時期は見つけにくいですが、落葉したあとはわかりやすくなりあちこちで見つけることも。

クマが近くにいると「強い獣臭がする」とよく聞きます。風の有無や風向きにもよると思いますが、遭遇時は全く獣臭を感じませんでした。山を歩いていて獣臭を強く感じるときもありますが、それがクマなのかは正直わかりません。しかし、獣臭を感じたときは要注意です。

クマに遭遇したら

◾︎ 大きな音や声を出して刺激しない
◾︎ クマに背を向けずに後退り
◾︎ 左右の横移動、走るのは厳禁
◾︎ 手足を広げて大きく見せる

大きな音を出すとクマを刺激してしまうので、20mを切るような近距離でクマと出会った場合は熊鈴や笛を必要以上に鳴らすのはNG。立ち止まり、静かにクマの動向を見ながら落ち着いて行動することが大切です。

クマは逃げるものを追いかける習性があります。「背を向ける = 自分より弱い」と判断するため、瞬時に不動することが最善策。また、横(左右)に動くものに対する動体視力がよく、前後に動くものに対する深視力が弱いので、静かに少しずつ後退します。樹林帯であれば、樹木に隠れながら後退して距離を稼ぎます。

樹木に隠れて不動すると見失いやすく、手足がはみ出していたとしても動かさなければ認識されにくいといわれます。しかし、動かすと気付かれるので、とにかく"動かない"こと。

隠れる場合、自分の身体がすっぽりと隠れる太い木だとクマの様子を把握できないので、多少細めの木がいいとされます。根本から枝分かれしていて、樹間に身を収めることができる木であれば、万一クマが攻撃してきても打撃を少なくできます。また、樹間からクマスプレーを突き出すことも可能なので、防御にも反撃にも適しています。

木登りが得意なので木の上に逃げるのは得策ではありませんが、もしそのような策を講じる場合は、足元に物を少しずつ投げて攻撃意欲を分散させます。実際に木に登って逃げた例もありますが、何時間も木の下に居座って見張られたとか、林業の作業中に遭遇して何時間も下りることができなかったなど、実例を考えても木の上はやめた方がよさそうです。

画像:pixabay

クマが最も怖がっているものは成獣のオスグマと記載しましたが、クマは人間と遭遇したときにまず"成獣のオスグマかどうか"を確かめるようです。両手足、胴体、頭部で人間の形を認識しているようですが、手足を広げ身体を大きく見せることで、成獣のオスグマと思わせることが効果的とされます。

また、未経験なことに敏感で慎重に対応するため、人間の思いがけない反撃や異質な持ち物によって攻撃意欲なくなることも。ストックを一緒に広げたり、頭の上で振り回したりすることで恐れを感じるようです。逃げずに襲ってきそうな場合はザックやストックなどを高い位置で大きく振り回し、大声を出して威嚇。人間がこのような行動をすると逃げた例も多くあります。

乗鞍岳の畳平バスターミナルで起きた事件のように、人が多い開けた場所では多人数が動くと目移りして攻撃力が減衰します。大勢いる場合は、一人にだけクマの攻撃を集中させないことが重症化を防ぐポイント。このときのクマは興奮状態で危険ですが、順々に手に持っているものを振り回して動作を大きく見せるなどの行動で対処します。

攻撃を受けたときの対処法

クマは"強く出る相手には強く反撃"します。

前足を"ハの字"にして低身状態で突進してきたら最大級の危険。足を揃えて飛び跳ねる場合は威嚇行動で、数メートルの突進で攻撃には至らないことが多いので動かないことが大切です。

攻撃を受けそう、あるいは受けたときは以下の対処法。

◾︎ うつ伏せガード法
◾︎ 死んだふり
◾︎ 熊スプレー噴射

クマから攻撃を受けてしまった場合の防御姿勢は、首の頚椎を両手で守る"うつ伏せガード法"

画像出典:知床財団

ー うつ伏せガード法のポイント ー

◾︎ ザックを背負ったままうつ伏せ
◾︎ 指を組んで、首の後ろ(頸動脈)を守る
◾︎ 肘で顔側面をガード
◾︎ 足は開く(ひっくり返されないように)

体の前面は加害に弱いので、攻撃は背中で受けて腹部はしっかり守ること。ザックを背負っていれば脚やお尻は噛まれる可能性がありますが、致命傷は免れます。

 

北海道の知床国立公園"知床五湖"では、公園内に入る前にレクチャーを受けます。山歩きを始めたばかりの頃で、ヒグマ相手にこんな方法でやり過ごせるのかと非常に不安でしたが、クマの生態を考えるとこれが一番いいと納得します。しかし、下半身を攻撃してくる子グマや若いクマには反撃が必要になる場合もあります。

反撃する場合は、クマの口に物を突っ込むと攻撃意欲が減退する傾向にあります。ストックを持っていれば、思いっきり口の中へ。口に突っ込めない場合は鼻先を打撃します。

"死んだふり"に関しては賛否両論ありますが、クマは動くものを攻撃し、動かないものには興味をなくすため短時間で攻撃が終わる可能性が高いといわれます。最初の一撃のあと、うつ伏せガード法の姿勢のまま死んだふりをしたことにより軽症で済んだ例も多くあるため、ある程度効果的だと考えられます。しかし、食害を受ける可能性もあるので、その後の動向には要注意。

画像:pixabay

クマは死んだふりをした人を遠くから長時間監視している場合もあります。"蟠踞""監視リターン攻撃"などといわれますが、クマが去ったあとに立ち上がると再び襲われたという事例も。

執着する習性のため何分経ったら大丈夫という指標はなく、リターン攻撃を2回受けたり、死んだふりをしたまま一夜を過ごしたという事例も。気配が消えたからといってすぐに動くことは危険です。

"物を落としながら去る"という方法を聞くこともありますが、これはあまり効果がないとされます。動がないものには興味を示さないので、落とされたものを確認するもののすぐに見限ってしまうことが多く、逃げる時間を稼げないことがほとんど。ザックの中の食料目当てであればザックを置いて逃げなければなりませんが、万一襲ってきた場合のガードのためになるべく手放さない方がいいです。

熊スプレーを効果的に使うためには正しく使用する必要があります。

◾︎ クマより高い位置から噴射
◾︎ クマ側が開けている
◾︎ 風上から噴射

狙う場所は"目と鼻"。笹藪の中にいるときに噴射しても笹が邪魔したり、跳ね返ってきて効果が薄いので必ず開けた場所で。また、自分が浴びないように必ず風上から噴射します。

熊スプレーの最大噴射距離は大体7〜10m程ですが、風の向きや強さで最大噴射距離まで届かないことが多いです。できれば3〜4mまで迫ってきたところで噴射。噴射時間も7〜9秒と短いため、確実に狙います。

スプレーが肌に少しでも付着すると火傷のようなダメージを受けるので、長袖長ズボンがベスト。なかなか難しいと思いますが、なるべくクマよりも高い位置から噴射すると浴びる確率を低くできます。

樹木があれば、木の影に隠れて腹部を守りながら。第一噴射のあとに状況次第で第ニ噴射。吸い込まない、目に入らないようにできる限り息を止め、目を細めて噴射します。

噴射液のカプサイシンは水に溶けないので乾いた布で抜き取ります。服に液が染みた場合は速やかに脱いで、水でしっかりと皮膚を洗います。浴びてしまった場合30分ほどで苦痛が薄れ、2時間ほどで影響は消えるようです。

熊スプレーは"辛い"という刺激をもたらすだけで、クマにも人間にも病変はきたしません。

最後に

とても長くなりましたが、クマとの共存を考えるきっかけになれば幸いです。

里山による境界線がなくなりつつあること、マタギが減少していること、これらはこの先もっと深刻な問題になると思います。その中で、山でも街でも生ゴミなどによる"人間界の味と臭い"を覚えさせないように注意していかなければなりません。娯楽を楽しむのは人間だけ。野生動物は子孫を残すために食べて、生きることに必死です。

接触事故をできる限り少なくするために「クマを理解すること」「自然界に存在しない味に出会わせないこと」が非常に重要だと改めて思いました。

クマがいることは"当たり前"ですが、自分の知識が浅はかなものであったと反省。自然への畏れを常に抱いているつもりでも、初めて遭遇するまでは「会わないだろう」という気持ちが大きく、単独の山歩きも怖さをほとんど感じませんでした。

しかし、度重なる遭遇を経験し、微かな音にもとても敏感になりました。耳を澄ませたり、臭いを確認したり、これまで以上に五感をフル稼働させて歩いています。

岩木山神社より岩木山に登ったとき、毎週登っているという70代くらいの地元のおじいさんにお会いしました。平日で人が少なく、熊鈴をリンリン鳴らす私と違っておじいさんは何もつけておらず。「クマは怖くないですか?」と聞くと、「今年はブナの実がいっぱい落ちてるから、登山道までは出てきてないよ。熊鈴つけるとさ、森の音が聴こえないから」と。森を見て、森の音を聞いて、自然とともに生きているんだなあ…

おじいさんの言葉で不思議と恐怖心はスーッと消え、そこからは私も熊鈴をストップし、森の音を聴きながら。

怖さがある一方で、クマが多く生息する地域の森はとても豊かで美しいと感じます。写真家の星野道夫さんは、もしクマが消えてしまったら「それは何とつまらぬ自然なのだろう」と本に書かれています。

クマのいない山は安心して歩けますが、その分どこか油断している自分がいることも否めません。クマがいることで自然に対する警戒心や五感が高まり、謙虚になれます。日本からクマが消えてしまったら一体どんな森になってしまうのか。それはきっと、とても恐ろしいことだと思います。

野生動物が野生動物として生きていけるように、できる対策をしながら山歩きを楽しみたいと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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