2023.7.12
1日目:東京→札幌→清里町
2日目:▲ 斜里岳
3日目:▲ 羅臼岳
4日目:ウトロ → 阿寒湖
5日目:▲ 雌阿寒岳
6日目:ウポポイ→ チロロ林道
★7日目:▲ 幌尻岳
8日目:富良野観光 → 倶知安
9日目:▲ 羊蹄山
10日目:天候が回復せず帰宅
歩き人たかちです。
北海道の山旅7日目。前回は火山溢れる雌阿寒岳に登り、夜行バスで札幌へ。友人と合流後ウポポイでアイヌを満喫し、チロロ林道コースの登山口で車中泊をしました。
そして、いよいよ日本百名山で最難関とされる"幌尻岳"。山頂は遠く、長い林道に多くの渡渉、ヒグマの楽園である日高山脈に聳える山。山自体の難易度に加え、アクセスや予約問題も絡んでくる。
今回は友人との幌尻山行。山荘とバスの予約、沢靴の用意が面倒なので"チロロ林道"から攻めることに。ビバークの1泊2日で計画していましたが、天候とヒグマを考慮して日帰りに変更。
距離、標高差、林道、渡渉、ドロドロ急登、ハイマツワールド、岩場、アップダウン・・・遠くて深い幌尻岳はワイルドな自然の魅力が詰まっている山でした。
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天気:曇り→ ガス・雨 → 曇り
気温:山頂10〜13℃
風:北西 7〜8m/s
チロロ林道登山口-ニノ沢-トッタの泉-▲ ヌカビラ岳-▲ 北戸蔦別岳-幌尻山荘分岐-▲ 戸蔦別岳-幌尻岳の肩-▲ 幌尻岳-往路下山
▲ コースタイム:18時間40分
実タイム:13時間30分
▲ 歩行距離:27.5km
▲ 累積標高差:±2714m
幌尻岳のコース選び
◾︎ 日帰り可:チロロ林道(普通の渡渉)
◾︎ 渡渉・山道が少ない:新冠
額平川コース
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コースタイム | 18時間40分(幌尻山荘から時計回り) 16時間10分(幌尻山荘からピストン) |
歩行距離 | 約28km |
累積標高差 | 約2000m |
日程 | 1泊2日 or 2泊3日 |
その他 | ・太腿あたりまでの渡渉あり(沢靴必須) ・水場1箇所(沢以外) ・メジャーコース、人は一番多い ・シャトルバス、幌尻山荘要予約(争奪戦) ・山荘とバスは7/1〜9/30まで |
歩く人が一番多く、山小屋もあるメジャーなコース。がっつりした渡渉があるため、沢靴などの滑らない靴が必要です。
コース全体の渡渉は20回弱程度。通常時で最大男性の太腿前後あたりまでの深さがある沢を渡ります。増水時は通行不可になることもあり(下山時に足止めをくらう可能性も)、それを踏まえると登頂率は一番低いと思われるコース。渡渉での死亡事故もあるため、事前情報、最新情報は要確認。しかし、道は一番整備されていて人も多いため、安心感があります。百名山狙いではないけど渡渉をしたいという人も入っています。
とよぬか山荘から先、ゲート内は一般車両通行禁止のため登山口まではシャトルバスを利用。バスと幌尻山荘はともに予約性であり、この予約がなかなかの争奪戦。12月あたりから翌年の予約が始まりますが、ツアーも多く入るため満室になるのが早いです。直前になると天候などでキャンセルがあるものの、これがとにかく面倒。幌尻山荘に関しては、利用の2週間前までに銀行振り込みをしなければならないため、天気を狙う場合はこれがネックになります。
幌尻岳(額平川コース)関係の予約はこちら
チロロ林道コース
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コースタイム | 18時間40分 |
歩行距離 | 約25km |
累積標高差 | 約2500m(GPSによって結構差が出る) |
日程 | 日帰り or 1泊2日 |
その他 | ・渡渉は10回弱、沢靴不要 ・アップダウンが多い ・多少のハイマツ漕ぎ ・ビバークポイントあり ・水場1箇所(沢以外) ・日帰り登山者多め ・予約関係不要 |
日帰りで幌尻岳を狙う人、額平川コースの渡渉と予約が面倒だという人が利用するコース。とはいえ、コースタイム18時間超のアップダウンのため、日帰りの場合は体力勝負。早い人は10時間前後で歩いて(走って?)いますが、自分の身体と要相談。
渡渉はあるものの、額平川コースのようながっつりした渡渉ではないため沢靴は不要。増水していなければ、ミドル以上の靴は飛び石で基本的に濡れません。ローカットはギリギリ濡れないかアウトか、水量によります(防水ならセーフかも。自分は非防水で濡れました)。
北戸蔦別岳山頂手前〜幌尻岳の肩の間には何箇所かビバークポイントがあり、テント泊で狙う人も。スペースはどこも広くありません(北戸蔦別岳手前が一番広いかと)
ただ、戸蔦別カール、七ッ沼カールはヒグマ出没頻度が高いため、ビバークの場合は食事場所、食料・ゴミの管理は厳重に。
新冠コース
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コースタイム | 16時間30分 (新冠幌尻山荘から往復6時間40分) |
歩行距離 | 約46km(内、林道38km) |
累積標高差 | 約3000m |
日程 | 日帰り or 1泊2日 or 2泊3日 |
その他 | ・山道は一番少ないが、林道片道19km ・渡渉は1箇所のみ ・未舗装道38km ・人はおそらく一番少ない ・新冠ポロシリ山荘利用届必要 ・大雨などで林道が通行止になることも |
グレートトラバースで田中陽希さんが歩いたことで"幌尻岳新冠陽希コース"と名付けられ、モニュメントが設置されています。これにより、以前よりは歩く人が多くなったかと。強者は日帰りで往復していたり・・・
このコースのネックは片道19kmの林道。山道区間は少なく渡渉も1箇所、山小屋もあるという好条件であるものの、この林道により利用者は少なめ。さらに、駐車場のあるインドナップ山荘までも未舗装道が約40km。バースト、パンクすると大変厄介です。
しかし、新冠ポロシリ山荘からは往復6時間40分と無理がなく、林道歩きさえ受け入れられれば山頂は近い。少ないですが、ツアーでこのコースを使用している場合もあります。整備は"新冠ポロシリ山岳会"が行っており、情報はそちらのHPにて。
新冠ポロシリ山岳会
各コースのアクセス
幌尻岳へのアクセスは基本的に車。公共交通機関ハイカーである自分も、さすがにこれは厳しいと思いました。額平川コースはできなくもないですが、結構無理矢理考えてみました。足がない場合は個人ガイドやツアーで登るか、潔くタクシー利用をするかになるかと。
額平川コース
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アクセス方法 | ・車 ・バス + タクシー( or 徒歩)も不可ではない *とよぬか山荘から先はシャトルバス利用 |
前泊地 | ・とよぬか山荘(車中泊禁止) ・近くの道の駅 |
とよぬか山荘から先のゲート内は一般車両禁止のため、シャトルバスを利用します(要予約)。気合いで歩くのはいいのかもしれませんが、片道21.6km。とよぬか山荘は車中泊禁止のため、前泊はとよぬか山荘か近くの道の駅で車中泊。
公共交通機関の場合、JR「鵡川駅」からバスに乗り「振内案内所」で下車、そこからタクシー利用(12km・¥5,000〜¥6,000)と紹介されています。これが一番スマートかと。
タクシーを利用したくないという場合、とよぬか山荘に一番近いバス停は「岩知志」で、山荘まで8.6km(ここからタクシーだと遠回りになってしまうよう)。苫小牧駅か静内駅からバスで「日高ターミナル」へ、乗り換えて「岩知志」下車。本数が少ないので、やはりタクシー利用が一番いいと思います。
幌尻岳(額平川コース)関係の予約はこちら
チロロ林道コース
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アクセス方法 | 車 |
未舗装道 | 約8km (チロロ林道入口〜ゲート) |
前泊地 | ・登山口駐車場(10台・簡易トイレあり) ・近くの道の駅 |
チロロ林道入口から一番近い道の駅"樹海ロード日高"にはスーパーとコンビニ(セイコーマート)が同じ敷地内にあり、とても便利。長距離運転のトラックなども車中泊をしているオアシスでもあります。ここに限らず、施設が営業している間に車中泊の車で駐車場を埋めるのはNGなので、そのあたりは様子をみながら。
道の駅から1kmの場所には"沙流川温泉 ひだか高原荘"という、日帰り入浴ができる施設もあります。
チロロ林道入口からの未舗装道は約8km。大雨などで崩れた場合は通行止になることも。この林道でバーストしたという記録もありますが、友人曰く「別にそこまでダートではない」とのこと。八ヶ岳の桜平への林道とかの方がダートらしい(私にはよくわからない)。砂利よりも土優勢で、ゴロゴロした石がずっと散らばっているわけでもない感じの道でした。
新冠コース
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アクセス方法 | 車 |
未舗装道 | 38km (町道入口ゲート〜インドナップ山荘) |
前泊地 | ・登山口駐車場(10台・トイレあり) ・インドナップ山荘 |
唯一、インドナップ山荘まで連れて行ってくれるタクシー会社は"北海交通(株)"です。新冠コース、アクセスについての詳細は"新冠ポロシリ山岳会"や"旅人の宿ふかふか亭"のHPにて。ふかふか亭は前泊宿としても利用されており、ここからタクシー利用する人もいるようです。
額平川コースの沢靴について
額平川コースを歩く場合、渡渉用の沢靴(あるいはそれに準ずる滑らない靴)が必要になります。
実際に額平川コースで登頂した人に聞いたおすすめシューズは"月星(ムーンスター)ジャガーシグマ"という学校用のシューズ。
普通の学校用シューズですが、どうも沢登りと相性のいいソールのようで評判が良い。沢屋や幌尻岳のガイドさんも愛用している人が多く、ガイドさんもお勧めしているとか。
沢靴を持っていない場合、価格も¥3,000ちょっとなので沢靴の半額かそれ以下。幌尻岳にしか使わないという人にはいいと思います。
「チロロ林道」コース概要
◾︎ コースタイム:18時間40分
◾︎ 歩行距離:約25km(実録27.5km)
◾︎ 累積標高差:約2500m(実録2714m)
*GPSによって結構差があります
額平川コースのような深い渡渉はなく、沢靴は不要。渡渉は10回弱ありましたが、増水していなければ飛び石で濡れずに通過できます(ミドル以上)。ローカットは微妙なところで、水量が多くなければ防水はセーフだと思います。非防水はギリギリセーフかアウト。私はアウトでした(はじめから濡れる気ではいましたが)。
コース上に山小屋はないため、日帰りが難しい場合はビバークでの1泊2日。ビバークポイントは、北戸蔦別岳手前〜山頂手前までに何箇所かありました。北戸蔦別岳手前(3,4張程度)か山頂(2,3張程度)でビバークするのが一般的だと思います。とはいえ、どこも広くはなく、稜線のため風の影響を受けます。
北戸蔦別岳〜幌尻岳の肩の稜線東側は、ヒグマの出没頻度の高い"戸蔦別カール"と"七ツ沼カール"。テントの中や近くで食事をしない、食料とゴミの管理を徹底するなどヒグマ対策が必要です。羅臼岳のようにフードロッカーなどはありません。
登山口から3kmほど砂利道の林道を歩くと、細い道の樹林帯歩きに。やがて渡渉がはじまり"ニノ沢出合"まで緩やかに沢を登っていきます。二ノ沢出合からヌカビラ岳は長い急登。ヌカビラ岳に登るだけでコースタイムは4時間です。長く、急な斜面は粘土質で滑りやすく、雨が降ると泥道に。急坂なので、下山時は格闘しました。藪漕ぎまではいきませんが笹や草をガサガサいく細い道もあり、朝露などで全身濡れます(濡れました)。
ヌカビラ岳手前からハイマツ帯となり、山頂からは稜線歩き。ハイマツは濃い場所もあるため、多少のハイマツ漕ぎも。道はしっかりとあり、もっとがっつり漕ぐものだと思っていたため、こんなもんかという印象でした。しかし、下山後は膝下にあざが何箇所もあったため、まあまあ当たっていたようです。
北戸蔦別岳、戸蔦別岳、幌尻岳の肩のそれぞれピークに至るまでは毎度アップダウンで、幌尻岳の肩からさらに登ると山頂に到着。アップダウンの辛さは個人的に・・・
ヌカビラ岳〜北戸蔦別岳 < 北戸蔦別岳〜戸蔦別岳 < 戸蔦別岳〜幌尻岳の肩
今回はガスと雨で景色がほとんど見えずアップダウンをクリアしていくことにしか意識が向きませんでしたが、天気が良ければその辛さが吹き飛ぶ気持ち良さかもしれません。北戸蔦別岳〜幌尻岳の肩までは東斜面にカールが広がり、とても綺麗だと思います。
山小屋もなく、コースタイムも長いですが、日高山脈の稜線歩きとお花畑を堪能できるチロロ林道コース。アクセスは一番容易で日帰りも可能なため、お金をかけず、宿泊もせず登りたいという人にはいいと思います。
「チロロ林道」の率直な感想
◾︎ 稜線のアップダウンよりニノ沢出合〜ヌカビラ岳への急坂
◾︎ お花がすごく綺麗
◾︎ ハイマツは思ったほど酷くない(アザにはなったけど)
◾︎ 晴れていたら最高の稜線歩き
◾︎ 日帰りにして良かった
普段ソロのテント泊縦走が多いため、アタックザックだけの軽さと、友人との楽しい山歩きということで、正直そこまで辛くはありませんでした。しかし、ソロだったらたぶん泣いていた。
ニノ沢出合からヌカビラ岳までは深い樹林帯の急坂をひたすら登るので、稜線のアップダウンよりもこちらの方が堪えました。ヒグマもいたし、稜線の途中から雨が降り出し下山時はドロドロで格闘。
ヌカビラ岳から先はお花畑がところどころ広がりますが、これがとても素敵です。アザは何箇所もできたし、レインウェアも穴が空いたけど、ハイマツ漕ぎは思ったほどではなく。ハイマツの向き的に、往路よりも復路の方が漕ぎました。
天候とヒグマの関係でビバーク予定から急遽日帰りにしましたが、ヌカビラ岳への急登やハイマツ漕ぎのことを考えると身軽な日帰り登山にして良かったと思いました。荷物が多いと結構大変になると思います。天候が良ければ稜線でのビバークも最高だと思いますが・・・
渡渉と急登[ 登山口-ヌカビラ岳 ]
チロロ林道ゲート-二ノ沢出合-トッタの泉-ヌカビラ岳:CT5時間30分
前日訪れた"国立アイヌ民族博物館-ウポポイ"でアイヌを見て感じました。伝統芸を観て、民族衣装を着て、多くの展示を観て。アイヌ後で"カムイ"は神様のことで、自然の中にはあらゆるカムイが存在します。その中でヒグマは"キンカムイ(山の神)"と呼ばれており、大切にされてきました。
アイヌの歴史に関する暗い部分が隠されているなど様々な意見があるようですが、アイヌの人々の自然観が日本が古くより大切にしてきた"アニミズム"の精神と根本的に同じで、個人的にはそういう部分がすごく良かったなあと思ったり。
ウポポイ 民族共生象徴空間
ウポポイのあとは白老駅の近くにある"しらおいグランマ"という、地元のお母さんたちが始めたというランチ限定の地域食堂へ。山菜中心の料理で、どれもこれもめちゃくちゃ美味しい!!白老町にお越しの際はぜひ◎
しらおいグランマ Instagram
ウポポイからチロロ林道へ。道の駅(樹海ロード日高)隣接のセイコーマートで夕食を食べて、人里を離れていく。
鹿の飛び出しに注意しながら未舗装道を走る。往路、復路ともに鹿いましたね。19:30頃対向車とすれ違い、自分たちは何時に下山できるだろうかと不安になりながら駐車場に到着。
20時頃駐車場に着くと車が1台。仲間がいると安堵して寝床を整えていたら、20時半頃ヘッドランプと人感センサーの明かりが・・・登山者が3人下山してきました。今日の人たちだったかあ。
車が去って静まり返る駐車場。私たちだけだね・・・としょんぼりしながら眠りに就くと、21時過ぎに1台やってきました。おお、いた〜!と再び安堵して夢の中へ。
3:20出発(なぜか中途半端)と言いながら3:10起床。結局3:45出発しました。隣の車のおじさんが「おはようございます」とこちらへ。2時過ぎに出発しようとしたけど、雨が降っていたからやめたとのこと。今日のアタックも悩んでいるようで、気が向いたらと(おそらく道民の方)。
気合いを入れて林道歩き。このときは青空がチラッと見えることもあり、いい方向に天気外れてくれないかな〜と。
3kmの林道を1人で歩くにはヒグマが怖いですが、友人とならサクサク。北海道電力取水施設への橋がある地点に到着し、お?もう着いた?という感じで砂利道終了。コースタイムは1時間30分ですが、50分弱くらいで結構巻けました。
道は細くなりますが、林道の延長という感じで緩やかに歩いていく。お互い熊鈴をつけていますが、今回はさらに笛を吹きながら。沢音で熊鈴の音は結構掻き消されるのと、鉢合わせ防止に見通しの悪いところで笛は結構有効だと思います。
普段からサコッシュにぶら下げているのは、モンベル「エマージェンシーコール」。SOS用の笛で大きな音が出ます。人もいなし、どの程度まで音が出るのかを確認しながら。
モンベル「エマージェンシーコール」
渡渉が始まり"二ノ沢出合"までは沢を横切ったりなんだりして歩きます。ピンクテープが見える範囲にあるので迷うことはないと思いますが、見失わないように。
雨上がりではあるものの水量はそこまで多くなく、非防水ローカットの自分は浸水しましたが、ミドルの友人は問題なし。ただ、山行途中で雨になり、下山時は水量が少し増えていました。
暑くも寒くもない、ちょうどいいような微妙なような気温。マイナスイオンを浴びながら、森の奥深くへと分け入っていく。
ヒグマの密集率なら知床が一番ですが、羅臼岳(岩尾別コース)は人がいたので安心感もありました。それに比べてこのチロロ林道は・・・なかなかワイルドな雰囲気です。知床の人は日高のクマが怖いといい、日高の人は知床のクマが怖いというらしい。
渡渉は2,3回くらいだと勝手に思っていましたが、10回弱くらいありました(記憶が曖昧ですが)。結構あるじゃんと思った記憶。
岩がゴロゴロしている沢を上流へ登っていくと"ニノ沢出合"に到着。ここからヌカビラ岳への急登が始まります。セイコーマートの大きなおにぎりを食べて、エネルギー補給をしてから挑む。
長い樹林帯に取りつく。ヌカビラ岳への斜面だけで4時間というコースタイム。時折りロープの垂れている粘土質のドロネチャな急坂で、下りはイヤラしい感じになりそうだね〜と。斜里岳で車に乗せてくださった方も、チロロ林道はこのヌカビラ岳への斜面が辛かったと仰っていました。その方はソロで登ったとのことですが、ソロは心が折れる。
12時頃から雨降りの予報ですが、その前に少しでも前にという気持ちでひたすら登る。半分を過ぎたところで「トッタの泉 約10分」という看板。人工物にホッとする。この森に人が入るという事実にホッとする。そのくらい深くて濃い山。
そして、もうひと登りして到着。勢いがいいというわけではありませんでしたが、汲むには十分。ただ、天気が良くないため水もあまり減っていない。とりあえず友人が持参した"GRAYL(グレイル )"で浄水してぐびぐび飲む。いやあ、最高。
グレイルはボトル型の浄水器。沢の多い山や渓流釣りなどではかなり重宝するアイテムです。
背丈ほどの笹やら草やらをガサガサ行く箇所も多めで、朝露で上半身までなかなかに濡れました。レインウェアを着ていれば安心ですが、この急登でそれは無理で気にせずどんどこ進む。なんか、白くて小さい変な幼虫もいっぱいくっついてくる・・・
決して楽な道ではないけど、今日は友と一緒。濡れようが、幼虫が這おうが、全部笑いばせる素敵な山行。あれこれ話しながら日高山脈の深い森を味わっていると横の斜面で突然・・・
ドス!!ドスドスドスドスドスドスドスドス・・・
姿は見えませんでしたが、ヒグマが斜面を一目散に逃げていきました。ヒグマの糞だらけというチロロ林道ではありますが、自分たちは目にせず。ヒグマの糞ないね〜なんて話しながら登っていたので、突然の重厚な足音に心臓ドッキドキ。いますよねえ、やっぱり。
だんだん低木になり、ハイマツが出てくる。人知れずひっそり咲くヤマオダマキの紫がなんだか鮮やかな気がする。
ヌカビラ岳登頂◎
三角点にかけられた小さな標識。ようやく樹林帯を抜けてテンションが上がるものの、真っ白で何も見えず。北西の風が吹き抜け、朝露と汗で濡れた身体が一気に冷やされる。まだ雨は降っていないけど、面倒だからレインパンツも履いてしまう。あったけえ。
さあ、ここからはチロロ林道第二章のアップダウン稜線。冷たい風と真っ白な空間にまだ5時間弱耐えなくてはならない。頑張ろう・・・天気良かったらなあ。
ガスとお花畑[ ヌカビラ岳-山頂 ]
ヌカビラ岳-北戸蔦別岳-幌尻山荘分岐-戸蔦別岳-幌尻岳の肩-幌尻岳:CT4時間40分
ヌカビラ岳から北戸蔦別岳までは比較的歩きやすく、斜面に広がるお花畑を愛でながらサクサク進む。
山頂手前のビバークポイント。山頂でテントを張る人が多い印象ですが、個人的にはこちらの方が張りやすそうだなと。2,3張でしょうか。
北戸蔦別岳登頂◎
相変わらずの真っ白さ。手描きの看板がお洒落。テンションはそのままに、少し休んで前進する。
山頂のビバークポイント。どこもそうですが、風があると結構きついですね。荷物を軽くして動くことを考えると、山頂手前か山頂でビバークするのが一番よい。当初の計画ではここでビバーク予定でした。
北戸蔦別岳から先、ハイマツワールドへ。歩きにくさが目立つものの、もっとがっつり漕ぐのかと思っていたので「ああ、こんなもんか」という感じで。
とはいえ、逞しく粘りのある枝は容赦なく、突き出た枝が膝〜脛あたりを攻撃してくる。いてっ!うぐっ!となりながら進み、下山後はアザいっぱい。ついでにレインウェアにも穴空いて・・・ガスだし、雨降ってくるし、もうどうにでもなれというテンションでした。
ツガザクラが満開だけど、白すぎる。
テンション上げてこー!
ぐーっと下って"幌尻山荘分岐"に到着。誰かしら周回で歩いているのでは?と思いましたが、こんな天気でわざわざ周回する人はおらず。誰にも会わないチロロが続きます。
東斜面にはカールが広がっているはずですが、ここはどんな場所なのか、どんな稜線なのか、どんな山容なのか、景色のかけらもないまま岩だったり、ハイマツだったりの中を突き進む。幌尻さん、あなたどんなお姿よ・・・
戸蔦別岳登頂◎
一つひとつピークをクリアする。次は"幌尻岳の肩"へのアップダウン。ここが一番大きい。
日本の山やめんなよと言わんばかりに、平坦な山なんてないんだぞと言わんばかりに標高を下げていく。ただ、南アルプス南部のアップダウンよりはマシ。
いつしか登り返しになっていて、ジグザグと斜面を上がっていく。考えたら負けくらいの勢いでお互い無心。お互い自分のペースで。小雨でとどまっていることだけが救い。
時々ガスがふっと流れたときにカールが見えるけど、ただそれだけ。晴れていればヒグマが結構見られる場所。ガスの方が出没の雰囲気はありますが、実際は晴れている方が活発らしく。今日はどこかで大人しくしているかな。
淡々と、淡々と、淡々と・・・傾斜がふっと緩やかになり、幌尻岳の肩に着いたらしい。特に何があるわけでもなく、そのままゆるゆると山頂へ道は続く。やっとラスボスだ。
お花は肩〜山頂が一番綺麗だった印象。お花の最盛期で良かった。そうでなきゃ、なんでこんなところ来たんだろ・・・って、きっとなってる。今日の天気は。
ビバークポイントっぽい平坦地がいきなり現れた。ここまでテント担いでくる人いる?
前は見えないけど、どこが山頂だかまったくわからないけど、辿ってきた軌跡を背負ってドキドキワクワク。頭の片隅では、正直本当に辿り着くとは思っていなかったみたい。
幌尻岳登らなくてもいいかな?
自分は本当に登りたいのかな?
あえて99座で終わらせちゃう?
今までいろんな思いが交錯していた。だけど、やっぱり心のどこかでスッキリしない思いが漂っていた。一歩一歩にいろんな思いを乗せて・・・
幌尻岳登頂ーーーーー!!
「あー!!着いたーーー!!!」と叫びながら看板に抱きつく。友とハイターーーッチ!!もはやガスも雨も景色もどうでもいい。
ガスガス雨降りの幌尻岳をわざわざ撮る
私たちの少し前、幌尻山荘からの5人くらいのグループの人たちが登頂していました。雨とガスと風の中"100名山完登 幌尻岳"というラミネートされた手作りの紙?を持って笑っている男性。こちらからも拍手を送る。やはり、幌尻岳が100座目の人は多い。幌尻岳はそういう山だ。おめでたい瞬間に出会うことができた。
幌尻岳って何で100名山?
幌尻岳コスパ悪すぎでしょ
そんな言葉をちらほら耳にする。平ヶ岳や皇海山のクラシックルートも遠いと言われるけど、幌尻岳は群を抜いて遠い。そして、群を抜いて"自然"だった。もっと深い山は山ほどあると思う。だけど、自分の山行の中では一番深くて、人がいない楽園に広がるお花畑は本当に活き活きしていて、これまで以上に厳しくて、優しくて、美しかった。
正直、100名山でなければ歩くことはなかった。でも、歩いてよかったと心の底から思った。知らない"自然"がたくさんあったから。小さくて大きい日本。こんな100名山が1座くらいあってもいいじゃないと、むしろあった方がいいじゃないと、辿り着いた今はそんな気持ち。
カムイの座す山[ 山頂-登山口 ]
往路下山:8時間30分
ゆっくり余韻に浸る暇もなく下山開始。余韻に浸っていても景色は見えないし、雨が酷くなる前にできる限り進みたい。ヌカビラ岳からの下山が憂鬱だし、日没前にゴールしたい。
いろんな喜びを胸に、一生に一度になるであろう道のりを足裏に刻む。簡単に再訪できる山ではない。額平川コース気になっちゃってるけども・・・
七ッ沼カールが先ほどよりも見えた。ちょっと見えるだけで気分が良くなる。一体何時間このガスの中にいるのか。
ガスが晴れそうな気配を醸し出してくるものの、期待には応えてくれない。雨も強くなったり、弱くなったり。期待も落胆も途中で捨てた。今のお楽しみは、セイコーマートで道産ポテトを食べること。
戸蔦別岳への登り返し。北戸蔦別岳まで頑張れば、その先ヌカビラ岳までは歩きやすい。頑張れ、私たち。
戸蔦別岳をクリアして再び下る。
幌尻山荘分岐まで戻ってきて北戸蔦別岳を登り返していると、エゾシマリスが一匹うろちょろ。近寄ってくるわけではないけど離れるわけでもなく、どっか行ったと思うとまたハイマツから出てくる。このリスくんは樹林帯に入るところまで一緒でした。幌尻岳の案内人?
北戸蔦別岳のハイマツ斜面をガサガサと。風に例えると、下りは追い風、登りは向かい風。ハイマツに逆らって進むため、この登り返しはなかなかだった。結局「あー!ちくしょー!」となりながら。山頂どこ行ったよ!?(ガスで見えない)と思うくらいには長く感じました。
ハイマツをすり抜ける身軽なリスが羨ましい。常に私たちの前を進むリスに頑張ってついてゆく。映画やアニメで動物が案内してくれるようなシーンがたまにあるけど、そんなことがまさか現実で起こるとは思っていなかった。リスだし。
ハイマツワールドから解放され、稜線ラストのヌカビラ岳を目指す。この区間はやっぱり歩きやすいですね。幌尻岳のお花畑ともお別れだな〜なんて歩いていると・・・
ん?・・・んん?んんん!?!?
見えたーーーーーーーーー!!!
最後の最後、カムイが微笑みました。6時間くらいひたすらガスと雨の稜線を歩き、さすがに諦めの気持ちでした。天気予報的には悪くなる一方で、外れないかなという気持ちもどっかいってた。
厚いベールに包まれていた日高山脈が瞬く間に露になっていく。何が起こっているのかわからないくらいのスピードで。
幌尻岳の山頂はチラ見程度でしたが「あれが北戸蔦別で、あれが戸蔦別で、あそこが肩かな!?で、あの奥が幌尻岳!?」と興奮気味に確かめ合う。
幌尻岳ありがとーーー!
来て良かったーーー!
日高山脈最高ーーー!
この稜線を歩いているのは私たちだけ。思う存分、声高らかに叫びました。歩いた13時間半に対してほんの10〜15分。割に合わない?コスパ悪すぎ?
そんなことはない。そんなことはどうでもいい。逆に脳裏に焼きつきました。ああ、これだから山は・・・
カムイが微笑んだ瞬間
涙目になりながら友とともに口から出た「あ〜来て良かった〜」という一言は、たぶん、登山人生で一番心の奥底の気持ちがこもっていた。
道の見える稜線歩きは何と気持ちのいいことか。最近の北海道の天気のように、気持ちもコロコロ変わる。やっぱり山は晴れがいい。でも、曇り、ガス、雨、嵐・・・これらがあるからこその晴れなのだ。
名残惜しく稜線を後にする。樹林帯に入ってすぐ、またリスが姿を表した。きっと、このリスがカムイだった。これを最後にリスは姿を見せなくなりました。ジブリの世界すぎる。
樹林帯に入ると雨が強くなり、再びあたりはガスの中。本当に本当に、あの一瞬だけだった。
ヌカビラ岳の急坂は雨で泥沼化しており、それはそれは滑る。踏ん張る私たちを嘲笑うかのように滑る。
でも、あの一瞬があったから心は晴れやか。ちくしょー!とか言ってたけど、なんかもう楽しんでいた。あの一瞬がなかったら、本気の地団駄を踏んでいたかも。
お互い尻もちをつきながらトッタの泉を過ぎ、ようやくニノ沢出合に戻ってきました。
沢は、朝よりも増水気味。ドロドロの足元を洗いながら林道を目指す。
雨に、乾かない朝露に、さすがにミドルカットの友人も靴の中は水溜り状態で、一緒にジャブジャブ渡渉を楽しむ。
日高の深い森を抜けてゆく。渡渉が終わると、林道はまだか?と気持ちが先走る。平坦な細い道をしばらく歩き・・・
砂利道の林道に帰着。いや〜歩いた歩いたと、今日の想い出を語りながら残り3km。
生きて帰ってきた!!
このゲートを見た人はたぶん、みんな同じことを思うのでは。時刻は17時過ぎ、日没前に帰還でました。
安堵で魂が抜けそうになるけど、暗くなる前に林道を抜けたいから(鹿との衝突が怖いから)、靴とレインをさっさと脱いで車に乗り込む。
ヒーロー気分で、笑顔が溢れっぱなしで未舗装道を走る。途中、1台の車とすれ違う。幌尻岳、登るんだなあ・・・昨日、私たちとすれ違った車の人もこんな気持ちだったのかも。
登山バッジは"とよぬか山荘"か"幌尻山荘"のいずれかでしか購入できません。そのため、国道から道を逸れてとよぬか山荘へ。山荘の売店は20時まででした。
国道に戻り日帰り入浴ができる"びらとり温泉ゆから"へ(21時まで営業、最終受付20:30)。道の駅樹海ロード日高の近くに"沙流川温泉"もありますがこちらは20時(最終受付19:30)までで、とよぬか山荘に寄り道していたこともあり慌ただしいのでやめました。
温泉後道の駅へ戻り、お楽しみの道産ポテトとカツゲン。静かな駐車場で幌尻岳の余韻に浸りながら、爆睡したのでした。
次の山は"後方羊蹄山"。翌日、富良野でメロンを堪能したあと札幌で友人とお別れ。電車で"倶知安"へと向かいました。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
よろしければ、応援よろしくお願い致します。
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